持たなくてもいい重い荷物を、誰に頼まれもしないのに一生懸命ぶらさげていないか。


「ねえ須貝さん。」
「お?どうした?」

動画の撮影が終わり皆で後片付けをしていたところ、山本が俺の肩をちょんちょんと突きながら名前を呼んできた。

「なまえさん、また残って仕事してるみたいなんですけど、大丈夫ですかね?」

何かと思えば、山本は心配そうな表情でぽつりとそうつぶやいたのだった。

「なーに山本、なまえのこと心配してくれてんの?」
「あ、いや、深い意味はなくって!でも最近ずっと仕事ばっかりしてるんじゃないかなって思って・・・。」

一生懸命頭を左右にブンブン振りながら答える山本。デスクが隣同士なこともあり、山本がなまえを気にかけてくれている事はよく分かっていた。しかしながら・・・こんなに早くなまえの頑張りすぎる所に気がつくとは。まあ、伊沢達も気にしてはいたけど。

「そうなんだよね〜。仕事熱心すぎるというか責任感が強すぎるというかさ?頑張りすぎちゃうのよ、あの子。」

幼い頃からそうだった。普段から、肩の力を抜く事を知らないというか、"抜く所は抜く"ことができないというか。なまえは真面目すぎるが故に、サボり方を知らなかった。日常生活でも、勉強においても。完璧主義という訳ではないのだが、自分でも気付かぬうちにキャパオーバーになっていることが多々あった。

「僕、この前休めてるか聞いてみたんですけど、」
「大丈夫、ってしか言わないでしょ?」

あいつ、誰が何と言おうと自分から休む事をしないからなあ。そんななまえが心配なのもあったのと、ここでなら良い仲間に恵まれることでなまえも少しは変わるかと思ったが・・・長年培ってきたもの、もとい、彼女の根底にあるものはそう簡単には変わらないよな。

「たまにさ、無理矢理休ませてあげてよ。」
「え?」
「ちょっと飯行くだけでもいいからさ。」

なまえは無事にQuizKnockの皆と打ち解けてはいるようだが、その中でも特に山本には心を開いているように思える。山本が気にかけてくれているのもあるからだろうが、そういう存在が早くも現れてくれたのはなまえにとっても良い事である。そんな山本からの誘いであれば、なまえもたまには息抜きをしてくれるのではないだろうか。

「まあとにかく、山本、ありがとな。」
「え?いや、僕は何も・・・」

俺からの感謝の言葉に、頭の上にハテナを浮かべながら答える山本をよそに、後片付けを済ませ、俺は現在進行形で頑張りすぎている彼女の元へと向かった。


「お、いたいた。なまえさん、久々に兄ちゃんと一緒に飯食いません?」

***


「どう?QuizKnockは。」

お兄ちゃんの最近のオススメらしいメニューをつまんでいると、お兄ちゃんが口を開く。

『お兄ちゃんが言ってた通り皆良い人だね。仕事も楽しいよ。』
「んなら良かった。院の方は?」
『実験も思ってたより早く進んでるよ。論文も一つは片付いたし。』
「へえ、相変わらず仕事が早いのね。」
『今やってる論文に苦戦中だけどね。』

昔からお兄ちゃんは私の事をよく気にかけてくれている。勉強も遊びも、いつもお兄ちゃんが色んな事を教えてくれていた。そんな私達を、両親も色んな方法で支援してくれていた。その影響もあってか、気がつけば私も博士課程の道にまで進んでいた。科目こそ違えど、全く兄妹揃って目指す場所は一緒だなあ、なんて思いながらも、学ぶ楽しさを教えてくれた家族の偉大さに感謝せずにはいられない。だから、私は頑張って博士課程を卒業したいし、仕事でも自分の能力は最大限に活かして皆の役に立ちたいと思っている。

「山本がさ、なまえの事心配してたよ。」
『・・・そう。』

いや山本だけじゃないんだけどさ、と続けるお兄ちゃん。
先日山本くんから休めているか聞かれた時の事を思い出す。心配そうな彼の表情が浮かんでくる。

『私ってそんなに無理してるように見える?』
「あなたが思ってる以上にはね。」

食い気味で即答するお兄ちゃん。そこにないはずの早押しボタンが見えるくらいの勢いにちょっと笑いそうになる。

「なまえ、自覚なく死にかけるじゃん?俺はなまえが本当にヤバくなる前に分かるけど、いい加減、自分のキャパをわかっとかないと駄目だと思うのよ。」

数年前から聞いてきたその言葉に眉間に皺がよるのが自分でも分かった。
確かに私は昔から、特に大学生になってからが顕著なのだが、何かに集中したりのめり込むと自分でも自分の疲労に気付けない人間だった。自分では疲れてないつもりでいたし、もっとやりたいって頭で思ってても体がついてこなかったり。最近は少しずつ自分のキャパをわかってきたつもりではいたけど、QuizKnockでの仕事の楽しさがそれを忘れさせていたらしい。

『ご心配をおかけしました。』
「ほんとに分かってんの?」
『仕事が楽しすぎてちょっと忘れてただけ。』
「あんたは無意識のうちに頑張りすぎるんだから。お兄ちゃんほんとに心配してんだからね?」
『はいはい、ありがとうございます。』

相変わらず世話焼きな兄だなあ、なんて思いながら、お兄ちゃんの頭の上にぷんぷん怒ったエフェクトを頭に浮かべる。頑張りすぎない話をされた後でも、あ、次はこういう編集やってみようかな、なんて考えてるくらい、私、今の仕事が楽しいんだよ。だから、あんまり心配しすぎなくても大丈夫なんだけどな。


【持たなくてもいい重い荷物を、誰に頼まれもしないのに一生懸命ぶらさげていないか。/中村天風】