死ぬるばかり苦しき時には、汝の母に語れ。


『うぅ・・・』
「え、なまえ、大丈夫?」

デスクに座って顔をしかめていると、近くを通りかかった福良くんが若干引いたような声色で私に声をかけてきた。

『ちょっと、あれ、その・・・ただの生理痛デス。』
「全然ただのって感じしないんだけど・・・。いつもこうなの?」
『いつもじゃないけど、時々重い時があって・・・。』

私は3.4ヶ月に1回くらいの割合で、生理の際にたまに猛烈な頭痛と腹痛に襲われる時がある。今日がたまたまその日だった。

「てか早退した方がいいんじゃない?」

ちらりと時計を見ると定時まであと約1時間。先程からあまり時計の針が進んでいるようには思えない。定時まであと少しだし・・・と思い休み休み仕事をしていたわけだが、一息ついたタイミングで気も抜けたのか、漏れでてしまった呻き声を通りすがりの福良くんに聞かれてしまった。そして彼曰く"ひどい顔"らしい。


『今日編集してしまいたい動画があって・・・。』
「無理しすぎは良くないって。とりあえず薬とかは?飲んだ?」
『ちょうど切らしてる・・・。』
「・・・ちょっと待ってて。」

タイミングの悪いことに、普段痛み止めを用意しているポーチの中には、空っぽのゴミが入ってただけだった。最後の一個飲んだなら補充しとけよ・・・と過去の自分に悪態をつきながら、お腹をゆっくりとさする。
大丈夫ですか?っていつも何かと心配してくれるお隣の山本くんの姿はない。今日は外に出ているようで、なぜか少し寂しくなった。

「ロキソニンで良い?」
『えっ、貰っても大丈夫なの?』
「一応もしもの時用にオフィスにも置いてあるんだ。あと、これも。」

しばらくして福良くんが戻ってきた。目の前に白い錠剤と水、そして湯気のたつマグカップが置かれる。そしてふわりと体に何か掛けられた。

『なにこれ・・・。』
「ホットココアとブランケット。少しでも体温めた方がいいかと思って。」
『・・・福良くんがママって呼ばれる理由が分かった気がする。』
「ちょっと、なまえまでそれ言う?」

呆れたように笑う福良くんに、『私もママって呼んで良い?』って聞いたら「それなまえのキャラじゃなくない?」ってつっこまれた。けど拒否されなかったし、これからふくらママって呼んでみようかな。
風邪をひいた時に看病してくれたお母さんを思い出す。福良くん、の心配の仕方というか、問診みたいなの、お母さんみたいだったなあ。懐かしい気持ちになりつつ、目の前で笑う福良くんの優しさに、頭もお腹も少しだけ痛みが和らいだ気がした。

「伊沢に言って有給取らせてもらったら?なんなら毎月休ませてもらいなよ。」
『最悪お願いするかもしれないけど、酷いのはたまにだし、痛み止めさえ忘れなければ大丈夫・・・。なにより編集遅れると悪いし。』
「その分は皆でカバーするから大丈夫だって。なまえは少し休むくらいでちょうどいいんじゃないの?だってあの顔・・・普段のなまえからじゃ想像出来ない顔してたよ?」
『うーん、まあ、考えておきます・・・。』

「ほんとにひどかったんだから」と苦笑いするふくらくん。そんなに酷かったのか、と思いつつも薬と水に手を伸ばし、早く効いてください、とお願いしながらそれらを飲み込む。ありがとう、と受け取って飲んだホットココアは、今まで飲んだココアの中で一番美味しかった。

 



【死ぬるばかり苦しき時には、汝の母に語れ。/太宰治】