財産よりも、もっと尊いのは「明るい性格」だ。


『お疲れ様です。』
「お疲れ様でーす。」

昼休憩もそろそろ終わる頃。昼食を終えた社員達がまばらにデスクに戻る中、私も大学院からオフィスにやってきていた。

「なまえさん、お疲れ様です。」
『山本くん、お疲れ様。』
「あれ、なんか元気ないです?」

ふぅ、とため息をついて荷物を下ろしていると、仕事のスイッチが入る前の様子の山本くんがこちらを覗き込んできた。この子は可愛い弟系の雰囲気の割に、案外鋭い所がある。というか、全然表に出したつもりなかったのに、なんで分かったんだろう。

『・・・実は論文滅茶苦茶直しもらっちゃって。結構頑張って書いたんだけど、また文献とか調べ直しかーって思ったら気が重くてさ。』
「あ〜、それは結構元気なくなりますね。こっちの心が折れるのお構いなし!みたいな。」

分かる分かる、と腕を組んで頷く山本くん。

「そんななまえさんに、はい!」
『なに?』

組んでいた腕を解いて、私に手を差し出してくる山本くん。その手にある何かを受け取ってほしいようで、恐る恐る私も手を伸ばす。

「僕がこの前友達の家に行った時に撮ってもらった写真なんですけどね、これ、友達の飼ってる犬なんですけど、写真撮るまで普通だったのにシャッター押した瞬間に変顔されたんですよ!」

山本くんが渡してきたものは、一枚の写真だった。山本くんの友達が買った一眼レフで試し撮りをしてみたところ、面白い写真が撮れたらしく記念に一枚現像してくれたらしい。手渡されるのが虫とかじゃなくて良かった。

『この子凄い顔してるね。』
「超高画質の無駄遣い感凄くないですか?」
『確かに。でもこの顔結構好きかも。』

SNSでよく投稿されている面白い写真や動画に笑ったり癒される事はたまにあるけど、過去に見たそれらに負けないインパクトのある犬の顔に思わず笑ってしまった。写真に写る山本くんはそんな犬の顔を知らずに笑っていて、その温度差というかギャップにもじわじわと笑いが込み上げてくる。

「あとこれ!こっちがメイン!」
『何これ?タピオカミルクティー?』
「そうそう!でも普通のタピオカミルクティーじゃないんですよ!見て、ほら!」

次に山本くんが差し出してきたのは、プラスチックの容器に入れられてストローが刺さったタピオカミルクティーだった。山本くんはポケットから携帯を取り出すと、携帯のライトを付けた後それをタピオカミルクティーの下に差し込んだ。

『え?光ってる?』
「そう!光るタピオカミルクティー!」

そういえば最近SNSで回転寿司で光るタピオカミルクティー登場、みたいな広告を見かけた気がするなあ。でも何で?

「光るタピオカといえば須貝さんでしょ!」
『・・・そういえばお兄ちゃん、過去になんか作ってたなあ。』
「須貝さんが好きならなまえさんも好きかと思って買ってきちゃいました!」
『何その謎理論。』

過去にタピオカやお蕎麦やらを光らせてきた人が私のお兄ちゃんであることは認めるが、だからって妹も何かと光らせたい訳ではないのでは?
ニコニコと嬉しそうにしている山本くんに、『お兄ちゃんにあげた方が反応良く喜んでくれたんじゃない?』と苦笑いするが、山本くんは「でも面白くないですか?」と笑う。
偶然私が少し元気がないタイミングと山本くんが光るタピオカミルクティーを買ってきたタイミングが重なったわけではあるが、私を楽しませようとしている山本くんの優しさに自然と笑顔になっていた。山本くんの底抜けに明るい感じ、なんだか救われるなあ。

「ちょっと写真撮りません?」
『撮って二人でお兄ちゃんに自慢しよっか。』

まるで悪戯っ子のように二人で笑いながら、光らせたタピオカミルクティーの写真や動画を撮った。お兄ちゃんに画像を送りつつ、最近ちゃんと始めた自分のSNSにも投稿をした。
そしてそれを見たお兄ちゃんの翌日のSNSには、彼もお店まで買いに行ったらしい同じタピオカミルクティーを光らせた写真が投稿されていた。




【財産よりも、もっと尊いのは「明るい性格」だ。/アンドリュー・カーネギー】