神が人間に期待するのは苦しみではない。レモンからレモネードを作っておいしく飲むことだ。
「なまえ、君は来週3日間仕事を休むように。」
『えっ?』
出来上がった動画と記事とを伊沢くんに提出しに行ったら、突然伊沢くんに休みを申告された。え?3日間?てかなんだそのお堅い上司みたいな口調は。いや上司なのは事実なんだけど。
『えっと、ちょっと理解が追いつかないんですけど・・・。』
「来週、3日間、休め。」
『いや聞こえてはいるから。』
「なまえさんは有給取得率がダントツで低いので、強制的に休んでもらうことにします。」
横からぬるっと顔を出し、私が持っていこうと手にした企画書や資料を奪い取ったのは河村さん。どうやら、伊沢くん福良くん河村さん達が話し合った結果こうなったらしい。・・・CEOとプロデューサーが裏で繋がっていた。
「皆・・・特に山本なんかが心配してたよ。」
「なんか教授に頼まれた資料作成がやばかったらしいな?」
・・・山本くんも繋がっていた。
山本くんにしか話してないのに、と朝イチで大学院にいる教授に確認してもらってオッケーをもらった事で無事任務完了した資料に奮闘していた時の事を思い浮かべる。あんなニコニコしながらチョコを差し入れてくれたその裏で彼は密かに行動していたらしい。
『でもそれもう今日出してきて終わったし。』
「ろくに休憩も出来なかったんだろ?」
『・・・私がこの仕事好きで楽しくてやりたくてやってるの知ってるでしょ?』
「だから強制的に休ませんの。お前は言うだけじゃ聞かないんだから。」
子供に言い聞かせる母親みたい。伊沢くんと河村さんからある意味お説教のようにも聞こえるそれに、もう諦めるしかないのかとため息をつく。
「周りに遠慮してんなら言うけど、なまえ以外は結構好きに有給取ってんだぜ?」
「ちょうど今社内全体で仕事も落ち着いてるし、これを機に少しは休むこと。」
「休むったって大学院で忙しいかもしんないけどさ、まあ少しくらい休んだってバチ当たんねえって。」
有無を言わせない流れにもう身を任せるしかなく、私は来週の3日間休み・・・今日が金曜日なので、土日合わせて5連休ももらう事になってしまった。そんなに休みをもらって、もはや何したらいいのか分からない。
「たまにはさ、レモンからレモネードを作っておいしく飲むだけでいいのよ。」
ぽん、と私の肩に手を置く河村さん。
『・・・やっぱり河村さんって神だったの?』
「神様の言うことは?」
「ぜったーい!」
『・・・何その飲み会のノリ。てかそれを言うなら王様だし。』
「マジレスしない!てか河村さんの言うこと聞く前に俺の言うこと聞けよ!」
私が根負けしたのを分かってかニコニコと笑みを浮かべている河村さんと、CEOとは思えない扱いを受けてツッコむ伊沢くん。
「なまえ、次オフィスに来るのは来週木曜だからな?分かったか?」
『・・・分かりました。』
「いまいち納得いってない顔だなあ。」
私の顔を見て呆れたように笑う河村さん。そんな顔に出てただろうか。
『・・・お休みありがとうございます。』
「おう。ゆっくり休むんだからな。」
二人に礼を言い自分のデスクに戻ると、これまたニコニコ嬉しそうに笑っている山本くんがいた。
「お休み、もらえました?」
『お陰様で。』
「そんなに怒らないでくださいよ!なまえさんが過労死しないか心配なんですから〜。」
『・・・怒ってないよ。ありがとう。いつもご心配をおかけしてすみません。』
優しい山本くんにも心配をかけてしまったことは申し訳ないと思っている。今回、きちんと休むことを目的に連休をもらったので、その分ゆっくり休ませてもらおう。そしてこれからは少しでも周りに心配をかけないように、休み方も体に覚えさせていかないとなあ。
【神が人間に期待するのは苦しみではない。レモンからレモネードを作っておいしく飲むことだ。/ヴィクトール・フランクル】