「我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥッ!!」
キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェ。彼女を尊敬し、崇拝していた男が、その救いの光に向かって声高に叫ぶ。
「………そう、そうですね。」
その声を受け止めてジャンヌは確かにその通りだ、と呟いた。
貴方が恨むのは道理で、
聖杯で力を得た貴方が国を滅ぼそうとするのも、悲しいくらいに道理だと。
己の中に怒りや憎しみを見い出せない聖女ジャンヌ・ダルクは、その瞬間に理解したというのだろうか。
己の内にない炎を。痛みを。苦しみを。
「そして私は―それを止める。」
理解した上で、親しき仲であった元帥と敵対することを選んだのか。
彼の道が祖国を滅ぼすこと―自身の役割と相対するものであるというのなら、例え親しい者といえど戦えるというのか。傷つけることが出来るというのか。
また、胸の内が苦しくなった。
私には、出来ないことだ。
出来なかったことだ。
思わず、セイバーの方を見た。
セイバーは真っ直ぐジャンヌの方を見ている。輝かしいものを見るような目で、ジャンヌの有り様を見ていた。
彼は乗り越えたのだろうか…。
私の知らない、その先の物語で。
「これが最後の戦いだ!」
「はい!」
立香とマシュのやり取りを皮切りに、この特異点最後の戦いが始まった。
なにぶんあの時の記憶があやふやなもので、よく分からない。最後、彼はどのような道を選んだのか。最後、『彼女』はどのように笑ったのか。
たぶん私は最後までそこにいれなかったのだろう。
私は『彼女』の傍にずっといることは出来ない。
前々からそんな風に思ってきたことはぼんやりと分かる。
最後が分からないというのも、なるほど頷けることである。
だからセイバーがカルデアに来て、話をした時に驚いた。
あの時と比べて、一人称が「僕」になっていた。
フードを被るようになっていた。
そしてちょっとだけ、意固地になっていた。
「マスター、医務室に行こう」
「今は立香が行ってるでしょう。その後はマシュ優先」
医療班だって人が足りないのだから、無理は言えない。
「そう言って君は、行かない気でいるんじゃないか?」
先程からこのやり取りを延々と続けている。
いい加減うんざりしてくるのだが。
「マスター」
どうやら折れる気はないらしい。
しばらくお互い睨み合っていたが、今回はこちらが折れるしかなさそうだ。
ため息をついてこちらの意志を示すと、セイバーは満足そうに笑った。
「ただし、マシュの後でね」
「あぁ、分かってるよ」
本当に意固地になった気がする。
彼は、あんな風に笑っていただろうか。
あんな風に自分の意見を譲らなかったり、かと思ったら満足気に笑ったり、…元マスターだった無垢なる少女に見せていた姿とはまた違った、少年のようなそれ。
どうやら、変わったのは私だけではなかったのかもしれない。