「ハァッ!!」
掛け声と共にセイバーの大剣が振り下ろされ、連合側のローマ兵がまとめてなぎ倒された。
ざっと周りを見渡すと、各所でも戦闘が終了したようだった。
「あの連合の手練たちを雑兵扱いか。本当に、その手数でよくやるものだ」
ローマ帝国第5代皇帝ネロ・クラウディウスが、その真紅の刃を収めながら楽しそうに声をかけてきた。
「どうだ?客将と言わず、余のものとなるか?この世の栄華を余の傍らで味わうことができるぞ?」
大仰に誉れを唄うように紡がれる誘いに、一瞬セイバーは顔を顰めた。
マシュも答えに詰まったかのように黙る。
「どうか?悪い話ではなかろう?」
皇帝ネロは断られることなど考えもしないように明るく問う。
「考えさせてください」
カルデアの面々の雰囲気を察したのか、立香が若干の苦笑を含みつつ当たり障りのないよう答えた。
その答えに特に気分を害したようでもなく、ネロはすんなり受け入れた。更に、「連合征伐後にはガリアに加えてブリタニアを与えても構わぬ」と宣うた。
―まずい。
隣に立つセイバーの空気がどんどん冷たくなっている。
ここまでの大盤振る舞いは珍しいのだぞ?と意気揚々に語り、隣の兵士に話を振って自分を讃えるネロに、お願いだからそれ以上は…と思わずにはいられない。
「おっと。また敵襲だ。今度も普通の兵士のようだ」
ドクターのアナウンスに、ネロも気持ちを切り替えて戦闘態勢に入る。
セイバーなんて真っ先に敵陣に飛び出して行った。
これを契機にあたりに蔓延していたなんとも言えない雰囲気も霧散する。
まるで空気を読んだかのような敵襲に、人生で初めて感謝するほかなかった。
そういえばセイバーは生前、ローマ帝国と相争う仲だった。
しかも得体の知れないやつに目をつけられ、大層嫌な思いをしたとかなんとか。
元より多弁な方ではないが、この第2特異点のローマに来てからはより一層喋らなくなった。
ブーディカの大変美味しいブリタニア料理を食べながら、今までのセイバーの様子を思い返す。
そもそもカルデアの中でも、あまり他者と関係作りをしているイメージもない。
マシュには何やかんやと気にかけている様子はあるが、他に召喚されたサーヴァント―ケルトの戦士クー・フーリンなどに話しかけられても、適当に流してその場を去る姿を何度が見たことがある。
よーしよしー!とブーディカの声が野営地のお風呂のテントから聞こえてきた。
先に食べ終わったマシュがブーディカに連れられてお風呂に入っていったのだった。
随分とマシュのことを可愛がるブーディカの姿に引っかかるものはある。
しかし、ブーディカによしよしされ、照れたり戸惑ったりするマシュはてとも可愛いのでよしとすることにした。
最後の一口を食べ終わり、息をつく。
これがブリタニア料理。
とても美味しかった。
セイバーにも食べさせればよかったかな、と少し後悔もする。
ブリタニアといえば、遠くセイバーの故郷ともいえるだろう。
昔『彼女』がセイバーの為に、と中世あたりのイギリス料理を一生懸命拵えていたことを思い出した。
美味しいよ、というセイバーの言葉に嬉しそうに微笑む姿は、まるで春を迎えて咲く花のようだった。
たまにはイギリス料理を作ってみてもいいかもしれない。
今度ブーディカにブリタニア料理を教わってみようかな…
食器を布で拭き取りながら遠い過去に想いを馳せていると、隣に影が差した。
「あの、ななしさん」
立香だった。
未だ緊張感が拭いきれないようだが、オルレアンにいた時よりもだいぶコミュニケーションもとりやすくなってきた。
「どうしたの?」
「ちょっと、魔術について教えて欲しくて…」
ちょっとだけでいいんです!と手を合わせてお願いしてきた。
「魔術?突然どうして?」
カルデアの中でも、特異点調査中も時折魔術の基礎を教えることはあった。
それは本当に最低限のことで、例えば傷ついた霊基の修復の仕方、魔術を用いた肉体の強化の仕方などカルデアの制服に付与された礼装スキルに関することが多い。
それまで一般人として生きてきた立香にとっては、その最低限ですら苦難の連続だ。
ただでさえ慣れないレイシフトや野宿で体力をすり減らしているのだから、詰め込みすぎはかえって魔力の低下に繋がるとドクターと相談していたところだ。
「私思ったんです。最近マシュって更に強くなったというか…戦うのが怖い気持ちはあるんですけど、それに立ち向かっていける強さみたいなものがあって」
言われてみればそうだ。
第2特異点のレイシフト前にも、原因や聖杯のありかなど何も分かっていない状況を謝るドクターに、「問題ありません。どちらもわたしたちで突き止めます」と言い切っていた。
普段カルデアでは見られない青空や草、大地の香りを感じて歓喜する余裕も出てきたと本人も話していた。
「私も成長しなきゃなぁって?」
何となく立香の言いたいことが分かったような気がした。
「まぁ、そんな感じです」
予想は的中したようで、立香はえへへ、と照れたように笑う。
「私、いつまでも一般人のままじゃダメなんです。本当は怖いのに、それでも踏ん張って戦ってくれるマシュを、私を守ってくれるそんなマシュを、私は支えたい」
守られてばかりじゃ駄目だから。
少しでもマシュの力になりたいから。
そんな純粋にマシュを想う立香。
「素敵なマスターを持てて、あの子も幸せね」
「そんな!私なんてまだまだです」
じゃあそんなまだまだなマスターさんにが立派なマシュのマスターになってもらうために、猛特訓しちゃおっかなぁと茶目っ気を入れて承諾すると、立香は目を丸くした後何故か嬉しそうにはい!!と元気よく頷いた。
これはブーディカにあてられたな、と心のどこかで自分の先輩ぶりを照れくさく思った。