「あら」
目を開けると、眩しい光と少女の顔。
「起きたのね。こんな所でお昼寝かしら?」
透き通った髪を揺らしながら『彼女』はふふ、とおかしそうに笑う。
手で光を遮りながらゆっくり起き上がると、そこは陽の差す暖かみの残るガーデンだった。
「■■?」
「なぁに、ななし」
『彼女』の名を呼ぶと、柔らかく返される。
よく、覚えてないが。
なんだか長い夢を見ていたような。
長く、激しい夢。
炎にまかれ、災厄に見舞われ、険しい道のりを歩き、強敵と命をかけて戦った。
そんな夢…
「そう。随分と大変だったのね」
けど、何か
良いこともあった気がするの。
「ふふ、お寝ぼけさん」
きっと、たくさんあったのよ。
良いこと。
■■は優しく言葉を紡ぐ。
それはまるで真綿のようで。
耳障りのよく、また微睡んでしまうような心地良さ。
でもね。
まだ、足りないわ。
つい目を閉じかけた私の耳に、温度のない声が届いた。
「■■…?」
「まだ、だめよ。もっと、もっと貴女は生きなきゃ」
その為に。
その為に私は貴女を生かしたのよ?
ふわふわとした木漏れ日あるガーデンが一気に夜に変わる。
冬の冷たい空気。
月光が差す硝子の空間。
「貴女は私の為に生きるのでしょう?」
眠気なんてどこかにいってしまった。
嗚呼、私は何を忘れていたのだろう。
そう、そうだ。
私は、■■のために生きて、
「私の為に尽くしてくれるのでしょう?」
『彼女』は固まる私の肩に両手を置いて、座り込む私の足の上に跨る。
ゆっくり視線を上げると、そこにはあの時から何も変わらない■■の顔。
慈しむように目を細め、こちらに微笑みかける美しい少女。
私は。
私は、『彼女』の為に生きて、
『彼女』の為に死ぬ。
ずっとそうして生きてきたように。
これからも。
「そう、そうよ。ななし。」
肩から頬に手を滑らし、こちらをのぞき込む■■。
ガーデンに咲き乱れる青い薔薇の花弁が舞い散るこの空間は、『彼女』にとても映えていて。
今までぼやけて、もやもやしていた心の内がすっと冴える。
そうだ。私の日常はここにあった。
確かなモノ。
私の全て。
「だから、勝手に死んではだめよ?」
「えぇ…」
するすると『彼女』の細い指が下に向かう。
頬、口、喉を通って胸元に辿り着いた。
ここも、いつか。
「令呪…?」
「これは、私からの贈り物。大事にしてね、ななし?」
『彼女』の辿る指を追いかけ、無言で頷く。
「童話ではね、靴はどんどん変わっていくのよ」
「靴…?」
「そう。靴。『これ』は靴」
令呪を指しながら■■は微笑む。
「皮から銀に。銀から金に。そしてガラスに」
ガラス。
ガラスの、靴。
「本当は私の靴なのだけど、貴女に貸してあげる。いつか、その靴が硝子になった時、貴女が私の王子様を連れてきてくれるって信じてるから」
『彼女』が手を退けると、そこには二枚羽の令呪が浮き出ていた。
「貴女が苦しんだり、喜んだり、悲しんだり、楽しんだり、嘆いたりしながら旅を重ねる度に、この令呪に魔力が少しずつ貯められるの」
そして。
いつか。
「■■の令呪に…?」
■■のガラスの靴に。
「そう!」
その答えに満足したのか、両手を合わせて喜ぶ■■。
その時になったら、私の元に来てね。
セイバーを連れて。
■■のその言葉が世界に響く。
私と、『彼女』のふたりきりの世界に。
ガラス張りの、このガーデンの空間に。
どこまでも。
どこまでも―