夜の中に隠してしまおう

気が付けば、あたりは夕暮れに染まっていた。
テントの向こうから見える海はオレンジに輝いており、とても雄大な景色の主役を飾っていた。

そこに―

「それじゃあ野郎ども!
新たに仲間になった三人、立香とマシュとななしに……
あれ?逆だ。
新たに仲間になったアタシたちに―」

「乾杯だ!!」


「かんぱーい!」


凛々しい女の声と、大勢の男の声が響きわたった。



これがこの、大航海時代の宴というものなんだろうか。

陽気に酒を飲み、肉を食らい、歌を歌い、踊る。
1つの焚き火を囲んで、みんなで大声で笑い合い、大いに楽しんでいた。

そんな陽気な雰囲気とは対象的に、私たち現代人は隅っこに留まるしかなかった。

マシュははやく特異点を修正するために動き出したいとヤキモキしているし、立香はそんなマシュを適度に宥めつつも海賊たちの宴を楽しんで見ていた。

「なあに湿気たツラしてんだい!そんなんじゃあ、財宝が逃げちまうよ!」

そこに酒をひっかけたフランシス・ドレイク―大航海時代を駆け抜ける豪傑が近づいてきた。

一言断りもせず、マシュの隣にドカリと腰を下ろす。

「そういうコトではなく。協力していただけるなら、こちらの事情を―」

「ん?ああ、大体わかるよ。
この海域は異常なんだろ」

マシュの訴えを遮って、ドレイクは本題を口にする。

マシュ共々に驚いていると、ドレイクはこれまであった異常な現象を挙げていく。

砲弾を受けてもピンピンしている人間、
ジャングルに続く地中海の温暖な海、
おかしな海流、風、
そして存在せぬ「大陸」。

どうやら私たちは新たな船出の前夜祭にお邪魔してしまったらしい。
が、そのことも気にせずドレイクは吉兆だと言い切った。

「見たところ、アンタも砲弾の一発や二発何とかなるんだろ?」

「試したことはありませんが、おそらく。
……あの、それを承知でなぜ襲ってきたのですか?」

不思議がるマシュにドレイクは豪快に笑って答えた。

「そりゃあアンタ、面白そうだからに決まってるだろ!」



絶句するマシュを横目に私はそっとその場から抜け出した。

今まで優等生揃いのカルデアでしか生きたことのなかったマシュにとっては、彼女のような人間は新鮮なんだろう。

新鮮すぎて、理解が追いつかないようではあるが。

善のようでいて悪。
悪のようでいて善。

己の欲望に従って生きるドレイクの有り様は、単純な善悪で測れるものではない。

―まぁ、そんなことは私にとって割とどうでもいいのだけど。

酔っ払いに絡まれていいことはない。

特にあの手の輩は、酒を強引に勧めてくる。
取り返しのつかない失態をおかす前にさっさと視界から消えるのが得策だ。

哀れ、立香。

私は未成年の飲酒に見ないフリをしてテントの外側に向かった。



夕陽が少しずつ沈んでいく。
空の色もグラデーションがかかってきた。
潮風も穏やかで、少し夜の気配を忍ばせている。

ちびちびとラム酒を飲みながら、その絶景を体全体で楽しむ。
後ろではガヤガヤと大勢の楽しそうな声がいいBGMとなって奏でられていた。

そこへ、個人回線でカルデアから通信が入ってきた。

「やあ」と緊張感のないドクターの声が聞こえた。

「いいねぇ〜…青い海!広い空!心地いい風!まるでバカンスじゃないか〜!」

周囲の様子や環境を事細かに報告すると、なぜか的外れな返答が返ってきた。
そのあまりの力の抜けように、こちらも肩の力が抜ける。

「ドクター…」

「羨ましい限りだよ!
ボクときたら、カルデアの閉鎖空間の中にずっといるんだぞ?
自然を味わったのはいったいどれくらい前になるんだか…」

それを言われてしまうと、なにも言い返せない。
罪悪感がじわりと湧く。

「ははは。ごめんごめん。君たちがそこにいるのは、命をかけて戦ってくれてるからだ。
ちょっと意地悪だったかな?」

そんな私の心境を察したのか、ドクターはすぐフォローを入れた。

笑いながら軽く言うドクターに、じゃあなんで言ったんだ…と思わなくもない。



「で、本題はなんですか」

わざわざ個人回線で通信を入れたのは、こんな世間話をするためだけではあるまい。

私がそう切り出すと、ドクターは声を落として話し始めた。

「…君の令呪の検査結果が出た。
単刀直入に言うよ。君の言う通り、その令呪には魔力を備蓄する術式が組み込まれていた」

やはり。
■■の言っていた通りだった。
私の令呪は未完成で、魔力を貯めることで徐々に形を為していく。

服の上から令呪を撫でながら、ドクターの話に耳を傾ける。

「このような形態をとる令呪は初めてのケースだ。本当はより精密な検査が必要になる。
この第三特異点を修復し次第、また調べさせてほしい」

「ドクター。これ以上調べても何か分かるとは思えません。
私は大丈夫です。
また何かありましたら報告しますね」

ドクターはまだ何か言いたそうな雰囲気を醸し出していたが、容赦なく通信を切らせてもらった。

必要ないのだ。
これ以上の情報は。

だってやることが決まっている。
明快に。簡潔に。はっきりと。

システムさえ正常に動いていることが分かれば、もう安心だ。
私は私のやるべき事をやる。

■■にガラスの靴を。
完璧な令呪を―



夕陽は海に落ち、辺りは薄暗い夜に包まれていた。
2018 11 06
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