「も、もうだめ…っ」
「もう少し頑張るんだ、マスター…!」
「や、もう……せいばー、……」
「あと少しで…ッ…くっ…ななし…!」
「んん!…も、だめ…!!セイバー、セイバー!ああ!!」
「ななし…!!」
「あ………――」
拝啓、オルガマリー所長。
お元気ですか。
きっとこのカルデアのどこか、草葉の陰で私たちを見守ってくださっていることと存じ上げます。
突然ですが、そのカルデアが今大変なことになっています。
そう、今日は10月31日。
世にいうハロウィンの季節。
外の世界が消失してしまってから、初めてカルデアで迎えるハロウィン。
本来ならささやかにカボチャなど飾ったり、クッキーを焼いたりするなどして和やかに終わるはずのこの世界的なイベントが―
《ボエェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》
破滅的な終わり(バッドエンド)を迎えようとしています。
「マスター〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
隣でマシュが絶叫する。
「旦那さま旦那さま旦那さま!!」
清姫が慌てて立香を揺さぶる。
そのBGMは破壊力ある暴力という名の歌。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
先程まで念話で耐え難い空間を嘆いていた声は止まり、今は藤丸立香と同じように意識を彼方に飛ばしていた。
「ななし、ななし。しっかりするんだ」
反射的に抱きとめた、力の抜けた彼女の体を軽く揺さぶる。
「う…………」
立香と違って、魔術で聴覚を守っていた分まだ被害は軽そうだ。
その魔術さえ貫通してしまうあのエリザベート・バートリーの歌声には恐れおののく。
「あ…アーサー………?」
常日頃滅多に呼ばれることのない真名で呼ばれ、一瞬ドキリとしてしまう。
すぐに取り繕った顔で己がマスターに応えた。
「無事かい?」
「…………は!」
しばらく焦点が合わない目でぼんやり宙を見上げていたが、ようやく意識が帰ってきたようだ。
「い、今…いったい何が………あぁ…悪寒…………」
先の衝撃的なライブはもう思い出したくないようで、頭を抱えてうんうん唸っている。
「マスター、大丈夫だ。全部終わったよ」
「お、おわ…?何が終わったんだろう…ま、まあいいや、うん」
何もなかった。
何もナカッタ。
機械的に何度か言葉を繰り返して、悪夢を処理したようだ。
彼女はゆっくり立ち上がった。
それにつられて自分も立ち上がる。
「立香!」
周囲に目をやって、立香の状態に気付いたのだろう。
パタパタと彼女の元に駆け寄って行った。
相変わらず、彼女自身のことは二の次、か。
その姿に不安はありつつも、小さく笑ってしまった。
「セイバー!あのドラ娘を黙らせて!」
アンコールよ!と、もう一曲歌おうとやる気満々にマイクをセットするエリザベートに、マスターは素早く対処する。
そのあまりの必死の形相に、同情の念と共に「イエス、マイマスター」と返す。
ただし、口元に笑みをたたえながら。