俺さ、東京守ることにした。
「………はぁ?」
「そんな目で見るなよ。…いや、普通に考えたらビックリするよな…はは。」
「当たり前でしょう。何を言ってるの?正気?」
「ひっでえ!」
何を言い出すのかと思ったら、『東京を守る』?突然同級生の口から飛び出した単語に、一瞬思考が停止した。
聖杯戦争の最中。そもそも陣営が違うというのに、こうやってファーストフード店で食事を共にするということ自体おかしなことだ。あってはならないことだ。
なのに、なのに。彼は、普通に話しかけてくるし、こうやって食事の席を共にしてくる。
彼が狂っているのか。私が狂っているのか。
おそらく前者だ。魔術師の戦いである聖杯戦争に、彼という一般人は異質なのだ。
魔術師としての戦い方も、魔眼の扱い方もよく知らない、普通の人間。
彼はからからと笑っていた。こうやってやり取りを楽しんでいる姿を見ると、緊張感が抜けそうになる。―否、こうやって食事を共にし、談笑している時点で、緊張感などというものは、もうとっくに切れていたのだろう。
「俺はさ、この聖杯戦争を止めたいんだ。」
「………」
「この戦争を止めて、東京を守る。…あはは、やっぱり変か?」
「それが、あなたの願い…」
「ああ。
……ななし、分かってくれるか?」
「………、」
ふざけている訳でも、軽く考えているわけでもないようだ。彼の瞳、なんて真剣な光を灯しているのだろう。
友だちと話したり、遊んだり、勉強したり…色々な表情をする彼を見てきた。その、彼が。笑って、冗談を言って、正直で、素直で、真っ直ぐで、普通に優しい人だった、あなたが。
どうしてそう重く、険しく、果てすら分からない道を―願いを選んだのだろう。
…ううん。そうだ。この人、こんな人間だった。優しい。優しすぎる人。他者を想い、常に優先できるような。だから、誰かのためにある自分を選べる。何かを守るための戦いを成すことのできる。当たり前の幸せを知っている。その幸せを大事にできる。
このひとは、そういうひとだった。
「綺麗、なのね。」
「…え?」
「とっても綺麗。そんな願い、初めて聞いた。」
「お、おぅ…ありがとう…?」
微笑みかけると、彼は瞳を見開いて戸惑ったかのように右往左往と視線を泳がせる。
こんな風に感情がストレートに出てきているところも、
綺麗すぎる願いを抱けるのも、
「あなたらしくて…うん。なんだか、納得してしまったわ。」
「じゃ、じゃあ…!」
「でも、でもね。私は…あなたの味方じゃない。別の陣営に属する者。その願いに協力することはできない。」
謝罪は無意味だ。これは罪でもなく、悪でもない。私は■■に仕える家に生まれ、彼は普通の家に生まれた。■■はセイバーを召喚し、彼はバーサーカーを召喚した。ただ、それだけのことだ。
彼の願いは理解できる。けれど、それに共鳴することはできないのだ。
その気持ちを込めてそう告げると、彼はあからさまに落ち込んでいた。
「そっか…」
「そもそも、こうやって話すこと自体も本来あってはならないことなの。分かってる?」
「お前が魔術師だってことだろ?それは分かってるよ。でも、俺たちクラスメイトだろ。」
「………」
そういうことじゃないんだけど。
間髪入れずに彼は見当違いなことを答えてきた。それに呆れた目線を送る。これは確実に、分かっていない。
「な、なんだよ。」
「…あなた、バーサーカーに怒られてない?」
「え!?なんで分かったんだ!?」
「ふふ。やっぱり。」
簡単にその姿に想像がつく。彼が少し危険なことをあっさり提案して、バーサーカーがそれを諌める。まぁ結局は、バーサーカーも折れて今に至るんだろうけど。
なんだかんだ、良い組み合わせなんだろう。彼と、バーサーカーは。
私が思わず笑を零してしまうと、彼もつられて笑う。
――ああ、なんて幸せな日々。
なんて、あたたかい時間。
ねぇ、あなた。□□□。
どうか、少しでも長く、生きて――
―――ぁ……
《ーーーーーーーー!!》
「ぁ、ぁ………」
夜空に次々と光の柱が降り注ぐ。獣の声。 狼のような遠吠えが鳴り響く。それは擦り切れそうなくらいにか細く高く反響していた。
光の柱が室内を明るくする。チカチカと点滅するように、その部屋の有様を照らしだしていた。
コンビニ袋から見えるたくさんのおにぎりの袋。ペットボトル。
それだけだ。それだけ。たった、それだけしかなかった。
あとは空気中に僅かに残る魔力の痕跡。それは2種類あった。どちらも見知ったもの。ひとつは毒の少女。そしてもうひとつ…おそらく、この部屋の一時的な主であったひとのもの。よく、知ってる。昨夜も、私、この魔力に触れて――
「あ…あ…ああ…!」
だけど、誰もいなかった。
この部屋はそこにあった温度さえ忘れ去ってしまったかのように、冷たく静まり返っていた。
なにがあったのか、簡単に理解できてしまう。
予測されていたことだ。予想できたことだ。
だから、だから……あの時私は…!
《ーーーーーーーー!!!!》
「…バー…サーカー……」
獣の雄叫び。絶命の瞬間のそれ。
マスターがいなくなった今、バーサーカーは魔力の供給を絶たれた。それだけでなく、彼は今、複数の…4騎のサーヴァントに追われている。
勝ち目は――ない。
なのに、それなのに、彼は―バーサーカーは、今も尚戦い続けている。手を伸ばそうと、している。
□□□の願いを果たそうとしている。
あの太陽の熱に、光に、刃に、灼かれながら。
「バーサーカー……ジキル…ハイド…」
行かなければ。かの森へ。太陽落ちるところへ。
――バーサーカーの、もとへ。
ガチャリ。
ドアが開く音がした。
その音と共に目を開ける。
「あ、目が覚めたんだね。気分はどうだい?」
柔和な笑みを浮かべてこちらを覗き込む青年。穏やかで、優しげなその翡翠の瞳が私を映す。ああ、彼、彼だ。
「……バーサーカー…」
覚醒直後の掠れた声ではしっかりそのサーヴァントを呼ぶことはできなかった。でも、彼なら。バーサーカーなら。優しいこの人なら、気付いてくれるだろう。
私がここまでやって来た理由も、あなたのマスターの身に何が起こったのかも。
無事でよかった。4騎集うあの森をよく乗り越えたものだ。少し安心した。よかった。あなたが、生きてくれていて…。彼の、もう、いなくなってしまった□□□の遺志を覚えていてくれるあなたがまだここにいてくれて――
しかし目の前の彼は、予想に反して戸惑ったようにその綺麗な眉を八の字にした。
「え…と、ごめんよ。僕はジキル。ヘンリー・ジキルだ。分かるかい?君の協力者だ。」
「……?」
ジキル。ジキル――
そんなこと、言われなくても分かっている。真名はとっくに思い当たっていた。
彼の普段の様子、そして霊薬を用いた身体能力の変化。宝具。それらを見れば、誰だってその名に行き着くはずだ。
困って沈黙した私を彼は「覚醒直後の意識の混濁か…」とブツブツ言いながらベッドのサイドテーブルに置かれていた紙にメモをとり始めた。
「…あ、いけない。僕としたことが。
ごめん、今何か飲めるものを持ってくるよ。お腹は空いているかい?」
「すいて、ない。」
「分かった。じゃあ水を――」
腰を上げたバーサーカーを制したのは私の手だった。彼の服の裾を掴んで、引き止めた。
「待って…。」
驚いてこちらを振り向いたバーサーカーの服を更に引っ張る。突然の事で対処できなかった彼の体ごと、ベッドに倒れ込んできた。
「危な…っ!!」
両手を私の顔の横について何とか完全に倒れきるのを防いだバーサーカーの顔が、近い。
「ど、どうしたんだい…?」
不安定な姿勢にも関わらず、私に彼の重さはほとんど伝わってこなかった。体重をかけさせまいとする、彼の優しさか。それによって益々身動きしづらい状況になっても、彼は真っ先にこちらの様子を伺ってきた。
「そういうところも…本当に似ているのね、あなた達…」
「…似ている…?」
呆然と私の言葉を反芻する彼の柔らかな髪に触れた。色は全く違うし、手ぐしの感覚も比べようがないくらいなのに、どうしてこうも、彼の顔が浮かぶのだろう。どうしてこうも、あなたの瞳に彼を見出してしまうのだろう。
「バーサーカー、バーサーカー…ジキル。無事でよかった…。あなたが消えてしまったら私……彼を………」
目の前の彼の顔が滲む。泣きそうになっているのか、私は。
いつもより丸くなった彼の綺麗な瞳の縁をなぞる。綺麗だ。とっても。彼の願いによく似て、美しくて、切ない。
這わした指先がカツンと何か硬いものにあたった。これは…メガネ…?
バーサーカーは、メガネなどしていただろうか。
動きが止まったのを契機に、彼は目線を逸らしながら私の手をどけた。
「ま、待ってほしい。君は、誰かと勘違いしているんだ。」
「…ジキル…?」
「あ、いや、そうなんだけど…そうではなくてだね…!」
素早い動きで身を起こしてベッドから降りたジキルは咳払いをした。
「…ここが、どこだか分かるかい?」
彼は努めて柔らかく、優しく問いかけてきた。
対する私は、その問いの本質的な意味を理解できずにいた。
どこ…どこって……。
そういえば、ここはどこなんだろう。改めてぐるりと部屋を見渡すと、微かに見覚えのある空間であることに気付いた。
「ん…アパート、メント?」
「うん。そうだね。ここは西暦1888年のロンドンの一角にある、僕のアパートメントだ。
では君が、何故ここにいるのか。それは説明できるかい?」
何故…なんで――?
アパートメント…どこのアパートメントだっけ。ロンドン?1888年?
ああ、確かそれは…四つ目の特異点の座標で……私は、その調査に向かっていて…。
カルデアのメンバー、マシュ、立香の顔が次々と浮かんできた。そしてこの特異点で出会った人たち―モードレッド、アンデルセン、そして今目の前にいる"サーヴァントではない"ヘンリー・ジキル。
「あ…」
「どうやら、意識が定まってきたようだね。」
「わ、私…どうしてここに?立香は?マシュは?」
「落ち着いて。彼女たちなら大丈夫だ。今は哨戒に出て行ってもらっているよ。」
慌てて身を起こそうとした私の肩に手を置いてジキルが宥める。彼に押されるままに、私は再びベッドに身を沈めた。
「わたし、なんで…寝てた…?」
「それはまた追い追い説明するよ。
とりあえず、今は水分を摂取した方がいい。軽い気分転換にもなるからね。」
「じゃあ水を持ってくるから、君は大人しく寝ているだよ。」と釘を刺し、ジキルは部屋から出ていった。
その姿を見送って、私は大きく息を吐き出しながら目を閉じた。
順を追って思い出していこう。確か、私達は救援要請のあったスコットランドヤード本部に向かった。そこにいたジャック・ザ・リッパーと戦い、勝つことができた。そして…そして。もうひとりのサーヴァントがいた。彼は――
――もう、彼ってば随分強引な事をするのね?
そのソプラノの声に弾かれるように目を開いた。
「■■…」
「ななし、あなたもそう思わない?」
そこにいたのは『彼女』だった。私が横たわっているベッドを見下ろして微笑んでいる。
その変わらぬ美しさと輝きに目を細めた。
「……キャスターのこと?」
「ええ。お友だちになった時は、こんなに無茶をしてくるような人だとは思わなかったわ。」
そう言って唇を少し尖らす。拗ねたかのような表情を浮かべてはいるものの、『彼女』はどこか楽しそうだった。
対して私は、どこか釈然とせず笑みを浮かべることさえできなかった。
「キャスターは…パラケルススは、私に何をしたの。」
「彼、せっかく封じていた記録を強引に引きずり出したの。本当に失礼なひと!女の子の秘密を無理矢理暴こうとするなんて。」
「記録…封じていた……」
「ああ、でも安心してね、ななし。ふふ、あなた達は強いものね?今ごろキャスターは倒されているはずよ。」
「立香たちが?今戦っているの?」
「そうよ。だから何も心配することはないわ。あなたに不要なものは、捨てていいの。
キャスターのことも、あの記録のことも…」
彼女の瞳がぼんやりと光ったかのように見えた。その声色もどんどん秘めやかに、甘やかなものへと変わっていく。
「あなたには要らないものよね?」
ゆっくり細められる瞳。海と空を閉じこめた、氷のような美しい瞳孔。それが私になみなみ注がれる。
要らない、もの。
『彼女』が必要ないと断じたもの。
あのキャスターも。
あの記録も。
全部…ぜんぶ、必要ない?
――ななし。
だれ。
――ななし。
だれなの。
私の腕を掴むのは。
引き止めるのは。
――行くな。
……本当に?
「ななし?」
「!!」
突然落ち着いた男の声が飛び込んできて目を開けた。
パタンとドアが閉まる音が聞こえてそちらを見ると、そこにはアーサーが、セイバーが立っていた。その手には水の入ったコップが。
彼は少し困惑している様子だったが、すぐその色を消してフードを下げた。何にも遮られていないその顔には、いつもの微笑が浮かんでいた。
「セ、イバー…」
「ごめんよ。お休みのところだったかな。」
「う、ううん。」
「それはよかった。これ、氏が用意した水だよ。彼は…ああそう、哨戒に出ていた彼女たちが戦果を挙げたようでね。その報告で――」
「キャスター、死んだの。」
彼女たち…立香たちの戦果と聞いて、真っ先にパラケルススの事が思い浮かんだ。先程『彼女』が言っていたことが頭の中を回る。
私が口にすると、彼は驚いたように間を置いた。
「…知っていたんだね。」
「知らない。…そんな気がしたの。」
ベッドの上で膝を抱えた私に、彼はコップを差し出した。
「とにかく水を飲んで。なんせ君は、数時間ほど何も口にしていないからね。」
出されたコップを素直に受け取り、礼を言ってひと口飲む。
ひんやりした水が乾いた喉を通って、程よく潤してくれた。
「パラケルスス…」
ぽつりと零れたキャスターの真名にセイバーは何も言わず、ベッドの端に腰掛けた。
「君が彼に何らかの魔術行使を受けて体調を崩したと聞いた時は焦ったよ。」
彼の魔術のレベルは身をもって体感しているからね、と彼は少し笑った。けれどそれも一瞬で、すぐにその顔に暗い影を落とした。
「肝心な時に…僕は、君の傍にいることができなかった。君を守ることができなかった。こんな体たらくでは、騎士など名乗れないな。」
「仕方ないことじゃない。この特異点では特に、そうするしかないもの。」
「例えそうだとしても、僕は何もできなかった自分に憤りを感じている。君を守れなかったことも、到底許せそうにない。
……何とももどかしいな。今回の特異点の調査は。」
本当、こういうところセイバーは頑なだ。最も、「仕方ないことだった」で済ますことができるなら、この人はここまで「騎士の王」という呪いを抱き続けることができなかったのだろうが。
「君は平気かい?どこか痛いところは?気持ち悪いところとかあるかな。」
重くなりかけた雰囲気を発散するように、彼が明るいトーンで話す。
ふと、先程の■■との会話が過ぎった。
私に必要ないもの。不要なもの。
あの記録。
まだ斑で、全ての記録を再生できた訳じゃない。所々不鮮明で、おそらくまだ確信たる部分に至れていない。
――分からないのだ。何故これを私は封じたのか。私が封じたのか、封じられたのか。それすらも不明瞭だ。
これは本当に必要ないと捨ててしまって、いいのか。
「…セイバー。」
「どうかしたかい?やはり体調が―」
「私、何か、忘れてる?」
「…!」
私が切り出した言葉に、彼は目を見開いて言葉を詰まらせた。
その様子を見て、やはり、と思う。
私は、あの聖杯戦争のなにか重要な…大切なことを忘れている。思い出せずにいる。
あの1991年の聖杯戦争を私は生き残ることができない。それは明確に意識していた。覚悟していた。■■に全てを捧げようと決意していた。だから、その聖杯戦争の結末が分からないのも納得できる。
だけれど。その絶命の瞬間さえ覚えていないのは何故なのだろう。私は自分がいつ、どこで、何故死んだのか分からない。いや、ここにいる以上、死に損なった。そういうことだろうか。
記録がない…その肝心の理由が分からなかった。おそらく封じていたこととなにか関係があるのだろうけれど…。
自然に私の手は、服の上から令呪をなぞっていた。
あと四枚。『彼女』の形になるまで、七枚羽の令呪になるまであと4つの羽が必要だ。
■■…。
『彼女』は全て識っているのだろう。私が何故あの記録を封じた―或いは封じられた―のかも、何を覚悟していたのかも。
『彼女』は全て分かった上で、あれは不要だと言っているのだ。ならば、それが正しいのでは?『彼女』が間違いを犯すはずがない。それを信じるだけでいいのではないか。
そうしたら、『彼女』のねがいは滞りなく果たされる。今度こそ。そのはずだ。
なのに…なぜ…私は迷っているの?
「…ななし。君は…、」
セイバーが口を開いた―と思った瞬間、彼はハッとしてフードを被った。そして瞬く間に姿を消した。霊体化か、或いはカルデアに還った…?
どうしたのだろうと疑問に思ったのと同時に、ドアが荒々しく開いた。
「ななしさん…!!目が覚めて良かった〜〜〜!!」
「あっ、先輩、先輩駄目ですよ!ななしさんはお休み中で…!」
声を上げながら入ってきたのは立香、それに後を追いかけるようにマシュまで。
立香はそのまま一直線に私の元に走ってきてガバリと抱き着いた。
「り、立香…!?」
「ううっ無事でよかったです…!」
「……心配かけたわね。ごめんなさい。
…マシュも。」
「あ…!いえ、そんな…ご無事で何よりです。ななしさん。」
立香のオレンジに輝く髪を優しく撫でながらマシュにも声をかけた。彼女は一瞬驚いたように慌てたが、立香と私の様子を見て微笑ましそうに笑った。
「おお、おお…!これはなんという美しき友情!倒れた戦友を慮る愛、そして感動の再会!『Sweet are the uses of adversity, Which, like the toad, ugly and venomous, Wears yet a precious jewel in his head.』!まさに定番のシナリオと言えましょうな!」
マシュの後ろでワハハとご大層に笑っているこの男は誰なのだろう。見るからに怪しい。
マシュに無言で視線を投げかけると、彼女はちらとその男に目を移して察したかのように言い淀んだ。
「え〜、こちらの方はキャスターのサーヴァント、シェイクスピアさんです。先程哨戒中に魔霧から召喚されたところに接触。色々あって仲間になって頂きました。」
シェイクスピア?シェイクスピアと言うと、あの劇作家の?
あまりの有名人にぽかんと紹介されたサーヴァント、キャスター・シェイクスピアを見る。すると彼と目が合った。
「む、そこの貴方。ええ貴方です。ほほぅ…これはこれは…。何とも素敵な悲劇の香りがしますな。」
「悲劇…?香り…??」
「ううむ、吾輩の手が疼くのを感じます…!
いかがな、お嬢さん。私にひとつ物語を――」
「バッカ野郎!」
「あだっ」
更にそのシェイクスピアの後ろから現れたモードレッドが、彼の頭を篭手のまま殴りつけた。
「オイ!お前、こいつに変な物語でも書かせてみろ。――死ぬぞ。色んな意味で。」
若干遠い目をしているモードレッドに、妙に説得力のある語感で言われ、頷く他なかった。
遠くで「セイバー!」とモードレッドを諌めるジキルの声がする。それに「うるせぇぞモヤシ!」と怒鳴るモードレッド。その傍で「吾輩の大切な脳細胞が…メソメソ…。」と嘆くシェイクスピア。その様子を見て呆けるマシュと笑う立香。
なんだかとても、賑やかなことになってきた。知らず知らずのうちに、私の口角も上がっていたようだった。