炎が遺した灰

どうやら、人類は滅んだらしい。

自然災害やパンデミック、宇宙からの侵略でもなく、人類史による人類の否定によって。


目が覚めれば、カルデアはあまりに無残な姿となっていた。レフ・ライノール教授は消え、オルガマリー所長は死んでいた。他のマスター候補であった47名の内46名が再起不能。冷凍保存だそうだ。
カルデア職員は事件前の3割の数となり、その司令塔をドクター・ロマンが担っているらしい。

外は存在しない。
私たちを存続させているのは、カルデアの論理防壁という不可視の薄っぺらい壁のみ。
なんてことだと頭を抱えたくなる。
それならまだ雪に囲まれていた方が気が楽だ。1歩外に出れば即死だなんて、閉鎖的にも程がある。

このように、人類最後の砦となってしまったカルデアの内も外も、大荒れだ。
レフ教授による爆破の直後、意識が朦朧としており事態の把握が出来ていなかった。
深刻なんてものじゃない。
悲惨過ぎてお先真っ暗、というところが妥当だろう。手のつけようもない。手をつけようとも思わない。
―いつもなら。

「この状況で君たちに話すのは、強制に近い。それでもボクはこう言うしかない」

なんということだろう。

「君たちは既に2004年の冬木にレイシフトし、聖杯を奪還し歴史を正しい形に修正した」

ドクターの言うことを察したのか、マシュがハッとした表情で己がマスターを見る。

「君たちが人類を救いたいのなら、2016年から先の未来を取り戻したいのなら」

何か言いたそうに、でもなんと言葉をかけていいのか分からないように、マシュは唇を震わせる。

「たった2人で、この7つの人類史と戦わなくてはいけない」

嗚呼、なんということだろう。
私は、
いや、私たちは……!

「マスター適性者48番 藤丸立香」
「マスター適性者47番 ななし」

「その覚悟はあるか?」


「君たちにカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」


痛い。苦しい。
数秒前まで覚えていた呼吸の仕方が思い出せない。

ドクターの顔も、ダ・ヴィンチちゃんの顔もマシュの顔もスタッフたちの顔も誰の顔も見れなかった。

重い。
目に見えない何かが、あの時のように私を上から押し潰そうとしてくる。

もう1人のマスター、

藤丸立香。補欠で参加させられた適性があるだけの一般人。
普通に生活し、普通に人生を終えるだけのはずだった子ども。

そんな彼女に、ドクターは、いや運命は、全人類を背負わせようとしている。
未来を取り戻せと、お前しかいないのだと迫っている。

見てください、ドクター。
彼女の握りしめた拳があんなにも震えている。
項垂れるように強く俯いている。

突然目の前に広げられた途方もない責任に、絶望的状況に、立ち向かい背負う覚悟を問われて恐ろしいのだろう。怖いのだろう。

私は不思議と恐怖はなかった。
与えられる危険には慣れている。
「やれ」と言われればやるまでだ。

だが彼女は違う。
断れない状況下で、みんな彼女のYESという言葉を待っている。待たなければならず、またその気持ちも彼女は分かっているのだろう。

「そとは…」

掠れたか細い声が頼りなく放り出される。

「外は、どうなっているのでしょうか」

蜃気楼のように揺れる質問に、ドクターが答えを絞り出す。

「理由はわからない。いずれにせよ、カルデアの外は滅びている」

「…電話をしようと、思っていました。ここで起きたこと、ここで経験したこと…。
でも、みんな、みんな、燃え尽きてしまった…!」

周囲のスタッフは彼女の心からの声にあてられ、沈痛な面持ちである。中には自分の境遇を重ねてか、泣き出す者もいた。

「覚悟なんてありません。今の話だって全て理解できているとは思わない」

それでも嫌だと、こんな結末は嫌だと震える声で藤丸立香は訴える。
人類最後のマスターとして。
生き延びた人間の1人として。

「だから私は、私は背負います」


「それが、自分にできることなら」


彼女は…藤丸立香は
人類の命運という重圧を
希望で返した。
2018 08 28
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