考え過ぎるなら手を繋ごうよ


人気絶好調であるアイドルの松村さんは休むことなく現場を駆け回っていた。


「お誕生日おめでとうございます!」

ドラマの撮影現場で演者さんたちにお祝いされ、ありがとうございますと丁寧に頭を下げている松村さん。チョコケーキ好きなんだよなぁなんて言っている。少し挨拶をされた後、すぐに撮影準備に移った。

『あの、今、いいですか?』

撮影で使う小物を仕分けていたら、松村さんに話しかけられた。うわぁ、お肌が綺麗だ、毛穴がひとつも見当たらない。思わずぼーっとしてしまう。「次の撮影に使うやつなんですけど…」その声に脳がシャキッとする。いくら魅力的であろうが、私情を挟むべきではない。邪心を振り払い、概ねわたしが知っていることを伝えると「助かりました、ありがとうございます」と綺麗な髪の毛を揺らしながら微笑む松村さん。

「またいつでも聞いてください!」
『お、頼もしいですね』
「え、あ、いえ、そんなことは…」

突然の賛辞につい否定してしまう。なんか偉そうな感じになったかな、うぅ、と唸っていると突如笑い声をあげる松村さん。
「え!?」『いえ、百面相している名前さんがあまりにも…」と言いかけて、そこで時が止まったように硬直している松村さん。あまりにも、なんだ。偉そう…?
「あ、ゃ、なんでもないです。今のは忘れてください」そう咳払いをする松村さんの耳は少し赤い。もしかして、風邪引いてる…?

『あの、良かったら』「…のど飴?」『喉、痛めるといけないですし』「あ、あぁ!なるほど、うん、はい」なんかカッコつけて渡してみたけど、絶対自前で持ってるよね。ちょっと引いてない?優しいから受け取ってくれたけど、余計なことしたかも。そんな中監督から招集の声がかかる。
「あ…、飴、ありがとうございました」名残惜しそうにぺこりと一礼し、集団へと溶け込んでいく。短い間だったけど松村さんと話すことができて胸が躍っている。あぁ、仕事頑張ってきてよかった!神様、暫時の幸せをありがとう。本当はさっきあの場でお祝いしたかったけど、忙しい身だし、こんな裏方の人間なんて目もくれないだろう。

無事に撮影が終わり、それぞれ撤収に取り掛かる。が、一回じゃ持てないかもしれないであろう量の荷物がある。手伝ってもらおうと同僚に声をかけるも、別件で手が離せないらしい。他にあてがないので、一人で運ぶしかない。結構重くて手が悲鳴を上げる寸前で荷物の片方が羽のように浮いた。

「手伝います」
『松村さん!?』

当たり前のようにわたしから荷物を取っていく。

『いやいや、お手伝いしていただくわけには…!』
「こんな大荷物を女性一人に持たせられません」
『いや、次のお仕事…』
「今日はこれで終わりなんです」
『いや、お疲れですし…』

なんとか荷物を下ろしてもらうようにお願いをしても、頑として荷物を離してくれなくて、結局お手伝いをしてもらうことになった。松村さんの貴重なオフの時間を割かせてしまった。

「これは、ここで大丈夫ですか?」
『はい、お願いします。本当にありがとうございます!』

備品を置く部屋は少し埃っぽくて薄暗い。だというのに、松村さんは様になっている。服についた埃を払うだけでかっこいい。なんだか異常にドキドキしてしまい、変な気を起こしそうだったので、無理矢理話題を作る。

『そういえば、今日お誕生日でしたよね?おめでとうございます』
「あ、覚えててくださったんですか、ありがとうございます嬉しいです」
『そりゃ!』
「まあ、今日皆さんに祝ってくださいましたし、そりゃそうか」
『いやいや…。な、なにもご用意できなくて心苦しいです』
「名前さんから直接お祝いしていただけただけで十分ですよ」
『そんな、大げさな』勘違いしちゃうよ、そんなの嬉しくて。平然を保とうとしても口角はどうしても上がってしまう。
「あ。やっぱりひとつだけ我儘言ってもいいですか?」『あ、もちろん!』「…今度、ご飯とか行きませんか?」『え…っと、ご飯、と言いますと、あの』そんなことありえるのか?『なにか、相談が…?』「違うくて」そう言ってわたしの手を取る松村さん。思わず顔を上げる。そこにはほんのり頬を染めた松村さんがいた。「ビジネスじゃなくて、プライベートで」なんだこれは、明日隕石でも落ちますか?ぐぐ、っと体温が上昇している。
『だ、めじゃないかもです…』「んはは、どっちですか」パンク寸前のわたしを前に、まだ余裕がありそうな松村さん。こっちはバクバクなのに、なぜ笑っていられるんだ。「黒沢さん、ずっと可愛い反応してくれますよね」『や、やめてください、悪い冗談』「冗談なんて言いませんよ」『わたしみたいな、裏方の端くれなんて』「関係ないです。俺は、黒沢さんとご飯に行きたい」『なん、か、さっきより強引じゃないですか!』「こうでもしないと、本気だって思われなさそうで」
嫌だったら手を振り払ってください、なんて言われてもとっくに離す理由なんてありもしなかった。

***

「どうだった?うまくいった?」「無事取り付けました」「やったじゃん」「姉貴あざす!」
「黒沢ちゃんな〜んか嬉しそう」『えぇ〜?気のせいですよ』「好きな人が近くにいるっていいねえ」『えぇ!?』「わかりやすすぎる」『わ、若菜さん!?』


@ni_ko_9 icca. - きっと、僕たち、運命だよ。


prev   top   next