天然記念物

私の好きな人はよく分からない。

お風呂上がりにほぼカラに近い紙パックのジュースを咥えながら雑誌を読んでいた。

共有スペースにはそんなに人はいなくてそれぞれ自室とかにいるんだと思う。

ソファで寛いでるのは私だけ。

すると隣りに誰かきたのか少しだけソファが沈む。
チラッとそちらを見ると他にも席が空いてるにも関わらず真隣に座る轟くん。

『どうしたの?』

私がそう聞くと彼は私の頭の上にポンっと手を置き、ポンポンと軽く撫でてくる。

『…え?』
「おやすみ」
『あ、うん。おやすみなさい』

私が返事をすると満足したのか去っていった轟くん。
食事用のテーブルの方にいた緑谷くん達も戸惑いを見せている。

それが一か月前。
毎日、毎晩頭を撫でてくるようになった。
私が共有スペースにいないと探しているらしくて結構ウロウロしてるのを見かけたりもした。

え、なに私のこと猫かなんかだと思ってる?

彼の行動がイマイチよく分からず毎度されるがままだ。

今日は寝る前自販機の前で出会った。

案の定私の頭を撫でる。

『ちょっと聞いてもいい?』
「なんだ?」
『これ、何?』
「手だ。」

いやいやいや、そんなことは分かってますのよ。
心の中でめちゃくちゃツッコミを入れる。

『いや違くて、なんで毎晩私の頭撫でるのかなって。』

そう聞くと彼はキョトンとした顔でこちらを見る。
だからこちらがキョトンなのよ。
そう思っていると轟くんは口を開く。

「女子が好きな男子の行動って言うやつに書いてあった」

そう言われて察する。
あぁ、私が読んでた雑誌に書いてあったな。

だとしても何故?
私が欲求不満にでも見えたのか?

『はぁ…轟くん。そういうのはね、誰にでもやる物じゃないし、毎日やるものでもないんだよ。』

私がため息をついてそう言うと彼は私の頭の上に置いていた手を引っ込めてしゅん、とした顔になる。

「悪ぃ」
『それと他の人ならあれかもだけど、轟くんなら壁ドンとかしたら好きな子に意識してもらえるんじゃない?』

なんで好きな人にアドバイスしてんだろう、とバカバカしくなる。
じゃあおやすみ、と立ち去ろうとすると腕を掴まれる。

「涼風もか?」
『え?』
「涼風も意識するのか?」

いや、そりゃあなたにされたら誰でも意識するでしょうよ。
この人は本当に無自覚だなぁ。

『そりゃするでしょ。もう早く寝っ、』

寝なよ、と腕を振り解こうとした時、トンっと押されて自販機に背中がつく。
轟くんに壁ドンされてるーなんて呑気なことは言ってられない。
まだみんな起きてるのにこんな所を見られたら勘違いされるに違いない。

『轟くん』

どいて、と声をかけようと顔を上に向けると相変わらず端正な顔立ちの彼の顔が目の前にあって息を飲む。

「意識、してくれたか?」

やってることはめちゃくちゃイケメンすぎるのに聞いてくる顔はどこか不安そうで、胸がギュンって鷲掴みされた気分になった。

『そ、んなこと、しなくても…』

私はもうあなたのことずっと前から意識してる、そう言おうとしても口からは上手く言葉が出なくて顔を背ける。
と同時に廊下の向こうにいるクラスメイトと目が合う。

『み、緑谷く、んっ?!』

彼の名前を口にした瞬間顎を掬われ唇に柔らかいものが触れる。
それが轟くんの唇だって理解するのには時間がかかった。
緑谷くんの焦った声とWOW、なんてふざけてるお茶子ちゃんの声、あとはもう覚えてない。

「他のやつは見るな」
『は、はい』

唇を離した轟くんはそう言い、私が返事をすると満足そうに私の頭を撫でて去っていった。
轟くんが離れてすぐ割と限界だったのでその場に座り込む。

近くにいた緑谷くん達が走って近づいてくる。

「二人付き合ってたん?」
『え、いや』
「え、どういうこと?」
『全然わかんない』

まだなにか質問されているが、私にも分からない。
あのド天然無自覚イケメンくんのことは全然掴めない。
とりあえず早まった鼓動と頬の熱を冷ますために自分の顔を手で覆う。








誰か彼の暴走を止めてください


轟(涼風)
(と、轟く、へ?!)
轟(おはよう)
(((…ええ?!)))
(挨拶とともに私のおでこにキスをする轟くん。
彼は満足そうな顔をしているけど、
周りも私も驚きすぎて固まる。)

切(轟、お前まず告ったのか?)
轟(告…?)
上(順番ちげぇよ!)
轟(順番があるのか。)
((涼風に同情するわ…))

(切島くん達から同情の視線を向けられているのに気づいたのは、またド天然くんがやらかしてからだった。)