02
先輩とはそれっきりだ。
食堂で見かけてもこちらに気づくと人混みに紛れて消えちゃうし、校舎で会うことはもちろん無い。
「はぁぁぁぁあ…」
「うるさい」
寮の共有スペースで項垂れていると耳郎にキレられる。
「明日本番なんだからさっさと寝て」
「女の人からキスする時ってどういう気持ちなの?」
「は?!」
耳郎の言葉にそう聞けばみんな一斉にこちらを向く。
峰「なんだよお前キスしたのかよォ…」
「例えばの話だって」
耳「いや例えばじゃないね。」
蛙「最近の上鳴ちゃん恋する乙女って感じだったわ。」
麗「どこか上の空ーって感じやったね!」
そう詰められて正直に先輩の話をする。
峰「んだよそれぇぇえ…ずリィよぉぉ…」
蛙「それで上鳴ちゃんはその先輩が好きなのね。」
「いや、好きっていうか…なんか、守ってあげたいなーみたいな?笑ってるとこ見てたいなーみたいな」
瀬「いやもうそれ好きだろ」
耳「チャラいのに鈍いのは超だるいわ」
それぞれの言葉に自分の中の感情がじわじわとハッキリする。
蛙「でもその先輩、3年生なんでしょう?もう卒業じゃない。」
「あ、そっか」
麗「早く告んないと高校生のデートできなくなっちゃうよ!」
八「制服デートってやつですわね!」
男子たちはつまらなそうにしているが女子たちはすごく嬉しそうに俺の話を聞いてくれる。
耳「明日告んなよ」
耳郎の言葉に女子全員親指を立てる。
耳「文化祭で告白。先輩もウチらのステージ見に来てくれるんじゃない?」
麗「片付けその分任せていいから!」
峰田が何か言おうとしていたが女子が全力で止めてみんな俺を応援した。
告白って言ったって、先輩の一時の気の迷いで、玉砕だったとしたらそんなん笑えねぇ…。
俺の雄英での初めての文化祭が悲しい思い出になってしまうのか、なんて嫌な方向に考える。
文化祭当日―――
寝れなかった。
まぁ寝れる訳もなく、眠りについたのは多分少し明るくなってから。
芦「どう?先輩いそう?」
ステージの袖から客席を覗く。
「いや、ここからじゃあんまり見えない…あ」
いた。
ステージからは少し遠いがすぐに分かった。
クラスメイトであろう他の先輩たちと何人かで来ているようだ。
葉「え、めっちゃ可愛いじゃん!」
耳「あの先輩も趣味悪いねぇ。」
そんな2人の言葉も耳に入らない。
クラスメイトに何か言われたのか少し照れたような顔で笑う先輩に心が掴まれる。
あぁ、俺やっぱり、涼風先輩のことが好きなんだ。
「頑張ろ」
耳郎が俺の肩を優しく叩いて拳を向けてきたので俺もそれに答えるように拳を向ける。
演奏中、もちろん楽しんだ。
先輩と目が合った気がした。
俺を見て笑ってくれた気がした。
大成功で終わった俺たちのステージ。
俺は急いで会場から出てくる人混みの中先輩を探した。
「涼風先輩!」
ようやく見つけたその背中に大きな声で呼びかければ彼女は振り向く。
『電気くん』
「ちょっと借ります!」
そう言って彼女の腕を取り、走る。
しばらく走ったところで止まるとそれに間に合わず先輩が俺の背中にぶつかる。
『いきなり止まるね』
いたぁと鼻をさする先輩の腕を握ったまま、目を合わせる。
「涼風先輩」
『どしたの?』
「俺、」
走ったことと今この状況が相まって心臓の音がうるさい。
言葉が出てこない。
「俺」
『あのキスの事だったら』
目を瞑って俯くとそう言葉が降ってきて顔を上げる。
『忘れていいよ』
寂しそうに眉を下げて笑う。
「忘れられるわけないでしょ…」
『ごめんね。でも』
「俺、涼風先輩のこと好きです。」
何か言いかけた先輩の言葉を遮り、そう口にする。
思ったよりもすんなり出た。
先輩は口元を抑えて顔を背ける。
「先輩の残りの高校生活、俺との思い出作って貰えませんか?」
『え、』
「後ちょっとで離れちゃうから、早く言わないとって言われて、確かに俺も思い出作りたいし、先輩が卒業してヒーローになったらさらに遠くに…」
『ちょちょ、ちょっと待って』
「え?」
一世一代の告白。
それを遮る先輩に目を向ければ、驚いたような顔でこちらを見ている。
『あの、私のこと3年生だと思ってる?』
「え、波動先輩と仲良く話してたから…」
『…ねじれ先輩はインターン先が一緒なの。電気くんと同じクラスのお茶子ちゃんも梅雨ちゃんも仲良くしてるよ。』
「…え?!」
彼女の言葉に驚けば彼女は困ったように笑う。
『そっか、電気くん私の事好きなんだ』
「あの、勘違いしてましたけどその気持ちは変わらないです!」
俺がそう言うと彼女は俺を見て笑う。
『顔真っ赤』
「っ、先輩も」
俺の頬に手を添えた先輩は多分俺と変わらないくらい顔が赤いと思う。
『私ね君のことずっと知ってたんだよ』
「え?」
『私がまだ高校1年の頃、久しぶりに帰った地元で体育祭のせいで声掛けられまくってさ。ナンパする人も多くて。』
彼女の言葉に何か記憶が蘇る。
『そのとき、助けてくれたの。君が。』
そう言って肩につくくらいの髪を後ろで束ねる。
あぁ、そうか。
あのときは髪の毛が長かったから、思い出せなかった。
『その時から私も電気くんが好き』
そう笑ってまた唇を重ねる。
『あと1年とちょっともあるけど、思い出作ってくれる?』
「それよりも長く作ります」
『ふふ、プロポーズみたい』
そう笑った彼女の腕を引いて自分の腕の中に閉じこめる。
これはまだ俺達が学生の時のお話
(俺の卒業後にお互い事務所を開き)
(苗字が一緒になったのは)
(また別のお話)