だって、私のヒーロー


それからというもの、爆豪は会話を全くしてくれなくなった。
元々こちらが話しかけないとまともに会話も出来なかったが今は話しかけると逃げられる。

『ばくご、』
「クソ髪トイレ行くぞ」
「え?!おい!」

切島は戸惑った顔をしてとりあえず爆豪についていく。
まっじでキレるぞ。
切島そこ変われや。

「陽向ちゃん、大丈夫?」
『もう無理かもしれない…』
「あらら重症やね」

お茶子ちゃんはひたすら机に突っ伏す私の頭を撫でてくれる。

「陽向、今日カラオケ行く?」
『響香ちゃんの歌聞いたら泣く気がする』
「じゃあボーリングとかどう?!」

響香ちゃんや三奈ちゃんも私を慰めに来てくれる。
と、そこでみんなが撫でていた手を止めたので顔を上げると目の前には轟。

「俺も一緒に行っていいか?」
「もちろん!みんなで行こー!」

轟の一言によって三奈ちゃんがクラスの人達に声をかける。

結局、女子は全員、男子は緑谷、上鳴、峰田、常闇くん、尾白くんが来ることになった。
そんなこんなで楽しみがあることによって何とか放課後まで耐えられた。


ボーリング場に着くとさすがに人数が多すぎるので何グループに別れる。
当然のように私と轟は同じチームにされた。

平然とストライクをとる轟とハイタッチをするとそのまま手を握られる。

『轟?』

そのまま手を引かれて階段を降りて1階下にあるゲーセンのベンチに連れていかれる。
轟が座るのでとりあえず横に並んで座る。

「俺の事考えてくんねぇか?」

うるさいゲーセンの音の中でもその声だけは響いて聞こえてくる。

『でも私、』
「すぐにじゃなくていい。ただ俺の事も見てほしい。」

真っ直ぐ私の目を見る轟。
いつもそうだ、彼はいつだって真っ直ぐ。
今の私はグラグラでそんな瞳で見つめられたらただ頷くしかできない。

「戻るか」
『ちょっと疲れたから、先戻ってて』

私が笑うと心配したが、少し一人になりたかったので大丈夫と言って先に戻らせる。

私は爆豪が大好きで、でも爆豪には嫌われてて、嫌ってるくせに抱きしめてきて、轟は私のことが好きで、一直線に来てくれる。
轟のこと、ちゃんと考えた方がいいよね。
まだ爆豪のことを諦められるわけじゃない。
でもいつかきっと忘れられる。

自分の中で整理して立ち上がると横のベンチにいた他校の人達に道を塞がれる。

『通れないんですけど』
「その制服雄英だよね?」
「てか君体育祭出てたよね」
「あー!風使ってた子だ!」

5人くらいだろうか、いつの間にか後ろにも回られてて囲まれている。

「俺たち困ってるんだよねぇ」
「ヒーロー志望なら助けてくんない?」

ゲラゲラと下品な笑い方をする彼らを睨むとリーダーであろう目の前にいる人物に片手で頬を掴まれる。

「ヒーロー志望が一般人にそんな態度とんの?」

グッと頬を引っ張られた瞬間後ろにいた人からぐえ、と言う蛙が潰れたような声が漏れる。

「俺が助けてやろうか?」

あぁ、なんであんたが来るんだよ。

「ば、爆豪…」
「困ってンだろ?助けてやるよ」

そう笑った爆豪はヒーローと言うより敵で、でもそれが大好きで。

もうどうだっていいや、なんて。







だって、私のヒーローだから。



(あ、逃げた)
爆(チッ、つまんねぇな)
切(バクゴー!あれ、涼風?)
(切島もいたんだ)
切(逆になんで涼風がここにいんの?)
(上の階でみんなでボーリングしてる)
切(あーなるほど!)

(今度は俺が…って)
(まじで意味わかんねぇ)