09


再開した試合。
影山くんはまだ少し不安を抱えているように感じた。
だがそれを払拭するのもまた、彼だ。

「田中さ「影山!!!!」」

体育館に響いた声。
また高く飛んだ彼の背中に羽が見えた気がした。

「居るぞ!!!」

その言葉だけが影山くんに刺さったと思う。
何も言わなくていい。
ただそれだけ。
スパイクは綺麗に決まらなかったけど、それでも―――



「おれはどこにだってとぶ!!どんなボールだって打つ!!だから」

まるで少年漫画のワンシーン。
全員の視線がそちらへと集まる。

「おれにトス、持って来い!!!!」

やっぱり純粋な想いって言うのはとても綺麗だ。





菅原先輩の助言のお陰が不思議な武器を手に入れた影山くんと小さい子。
勝ったとき、何故だか嬉しくなってしまったのは心に閉まっておこう。
何がなんでも影山くんには言ってやらな―――

「おい」
『は、はい』

そんなことを考えながら片付けをしていると後ろからドスの効いた声がする。
振り向かなくてもわかる。
影山くんだ。

「同じクラスのやつだよな。」
『あ、そこからですか』
「あ?」
『大丈夫です。』
「何がだよ。」

多分彼はとことん興味のないものは覚えないのだろう。
同じクラスのやつって…自己紹介ありましたよね。聞いてませんでしたか?名前あるんですがとキレたいところを我慢してヘラーっと笑うと彼は眉間のシワをより深くした。
てか一回会話しただけのやつの事なんて覚えてないってか。

「俺は影や」
『影山くんですよね。存じてます。同じクラスのやつなんで。』
「チッ…お前は」
『…押耳です。』

今にも首ねじ曲げられそうな程の圧力でそう言われ小声でそれだけ返す。

「あ?」

だからさっきからなんでこの人は喧嘩腰なんでしょうか。

『押耳蒼葉です!』
「押耳か。」
「なぁなぁ!何組?」

影山くんの横から飛び出してきた小さい子。
確か日向くん。

『三組だよ』
「じゃあ影山と一緒?いいなぁ俺だけ同じクラスのやついない」
『じゃあ日向くんのところ遊びに行くよ』
「まじ?!よっしゃー!」

喜ぶ日向くんの背後にしっぽが見えた気がした。

「あ、月島!」

日向くんはそのまま私の腕を引きもう二人の一年生のところまで駆けていく。

「なに」
「試合の最初と最後に握手すんじゃん。今日の最初はしてないけどっ」

律儀にメガネくんに握手を求める日向くんに少し笑ってしまう。

『押耳蒼葉です。よろしくお願いします。』

私がそう挨拶するとソバカスくんがニコニコ笑って返してくれる。

「山口忠です。よろしくお願いします。」
「月島蛍。」

淡白か!とツッコミたかったが、未だ日向くんと月島くんは揉めているようなので少し避けておいた。

その後無事入部届を受理された影山くんと日向くん。

私を含めた五人に烏野高校排球部のジャージが手渡された。

真っ黒でとてもかっこいいそのジャージに袖を通して頬が緩む。

「これからよろしくね。蒼葉ちゃん。」

そう笑った潔子先輩に力強く頷いた。