10
練習試合がどうたら、なんて話をしているとバタバタと駆けてくる足音がして勢いよく人が入ってくる。
どうやら顧問の先生のようで初めて挨拶ができた。
武田先生が持ってきてくれた練習試合の話にみんなが沸いた。
「ただ条件があってね…」
「条件?」
「影山君をセッターとしてフルで出すこと」
その言葉に思わず菅原先輩の方へと目を向ける。
始めてここに来た時に見た菅原先輩のセットアップはとても綺麗だと思った。
試合で見た訳では無いが、どこかこう
影山くんも確かに綺麗だ。
天才、という言葉が合うほどに。
「い…良いじゃないか!こんなチャンスそうないだろ」
その菅原先輩の言葉に迷いはあれど嘘は無い。
そう感じた。
もちろんそれに田中先輩は言い返す。
だけどそれも納得する形で収められてしまう。
その後の詳しい話はあまり聞けなかった。
ずっと、烏野で正セッターとしてやってきた菅原先輩。
不意に入ってきた一年生にその座を奪われる恐怖。
たかがマネージャーの私には到底分かり得ないものだ。
部活が終わるとすぐに菅原先輩の元へと行く。
『っ、菅原先輩』
「お?どうした?」
先を歩いていた菅原先輩を追って走ったので少し息が上がってしまったが話せないほどではない。
『私、菅原先輩のセット好きです』
「えっ?」
『練習で見ただけですけど、とても綺麗だと思いました。』
私がそう言うと少し照れたように頬をかく菅原先輩。
『私、』
「菅原さん!」
聞き慣れた声に二人で振り向くと、息を切らした影山くんがいて彼もまた菅原先輩を追ってきたのだとすぐに分かった。
「今回は俺自動的にスタメンですけど、次はちゃんと実力でレギュラーとります!」
「えっ!?」
「えっ??」
影山くんの言葉に驚く菅原先輩とそれに対して驚く影山くん。
少し面白いと思ってしまった。
「あ、いや、影山は俺なんか眼中に無いと思ってたから意外で…」
「??何でですか??」
バレー一筋の影山くんにとっては誰も彼もがライバルなのだろう。
無意識の彼の言葉が逆に怖いほど心に刺さる。
「"経験"の差はそう簡単に埋まるもんじゃないです…それに」
そう口にしながら凄く怖い顔をした影山くん。
「スガさーん!」
「スガー」
「菅原さーん!」
その声に押黙る影山くん。
あぁ、試合中に月島くんが言っていた王様がどうのとかいう話だろうか。
「ほ…他のメンバーからの…し…し…」
眉間に皺を寄せながら言葉を続ける影山くん。
「信頼とか…」
そう口にした影山くんに菅原先輩と目を合わせる。
「俺、負けません!」
その言葉に少し驚いた表情を見せて優しい笑顔を向ける菅原先輩。
「…うん。俺も負けない。」
なんか、いいなと漠然と感じた。
『まぁ菅原先輩の方が優しいもんねぇ。すぐ名前覚えてくれたし。』
「あ?」
「ちょっ、押耳さん?!」
『同じクラスのやつ?って。一回会話してんだけど!』
先程のイライラをちょっとだけ発散する。
今にも無差別で殺めそうな表情の影山くんにドヤ顔を見せてやれば、悔しそうな表情に変わる。
『私は菅原先輩派なので』
「ええ…」
「…俺の方がいいって言わせてやる」
ブチギレるかと思ったら清々しいほど淡々とそう告げる影山くん。
左の口の端を上げて笑う影山くんはどこか楽しそうで思わず頷いた。
『期待してる。』