02


『じゃあ、ドリンク持って先行ってますね』
「うん。ごめんね。ありがとう。」

武田先生に用事があるという潔子さんの代わりにドリンクの入ったカゴを持って廊下を歩く。

渡り廊下の所で声がして静かにそちらに近づく。

「…ヤな奴でも!極力視界に入れないようにがんばる!」
「俺の台詞セリフだバカヤローッ!!!」

学校の指定ジャージが二つ。
一年だろうか。

少しずつ近づいて彼らを眺める。
どうやら大地さんに締め出しを食らったらしい。

『あれ、君』

私が声を出すと二人の視線がこちらに向く。
身長の高い方、見たことある。
去年、話題になっていた子だ。
名前は確か―――

『影島くん?』
「影山です」
『…』

自信満々に言っといて名前間違えた。
恥ずかしいしとても失礼だ。
今にも消えたい衝動に駆られたがここは先輩の威厳を見せなければと、カゴを握り直す。

『ん"ん"っ…影山くんね。うん。知ってたよ。で、君は?』
「へっ?!…ひっ、日向翔陽です…」
『日向くんか〜!私より低い?』

そう言って目の前に立ち、自分と日向くんの頭の上に手をスライドさせる。

『何センチ?』
「163…です」
『チッ』

1cm負けてんじゃん。
私が舌打ちをすると肩を揺らして怯える日向くん。

『まぁ私はまだ成長期なので負けないけども』
「お、俺も!身長伸びるし!です!」

変な日本語が気になったがまぁそこは放っておこう。

『二人とも締め出し食らったの?』
「…はい。だから今どうしようかと」
「どうやったら中に入れてもらえますかっ?!」
『んー…』

真剣に相談してくる二人を見て、あぁ私は先輩だと優越感に浸る。
影山くんはもう少し屈め。
上からの圧がすごいんだよ。

『勝負して勝ったら、とか?』

なんて適当なことを口にする。
田中こういう子達好きそうだしなぁ。
二人は顔を見合せてそれだ!と言う表情を見せる。
あ、これマジな感じ?

言い出しっぺがバレないようにまた会話を始めた二人の横を通って体育館に入る。

『お疲れ様でーす』
「おう!遅かったな!」

べしっと背中を叩かれその手の主を睨む。

『あんたが私のことを女子として扱ってないのはよく分かってるけど、跡ついたら末代まで呪うよ』
「そんなに強く叩いてねぇよ!」

怯えたような同級生、田中を一瞥して先輩たちにドリンクを渡しに行く。

「一年たちに会った?」
『日向くんと影山くんですよね』
「そうそう。教頭のカツ」
「スガ」
「まぁ一悶着あってさ」

大地さんの圧がすごい。
私は聞き逃さなかった。
やらかしたって、教頭のカツラぶっ飛ばしたのね。
大地さん怒ったよなぁきっと。
大体トラブルがある所に教頭ありだもんな。

「どうだった?あの二人」
『影山くんって北一の天才セッターの子ですよね』
「それに日向の方な。俺らが見に行った中学の試合であいつら敵同士だったんだよなぁ。」
『何それ青春ですか?』
「えっ?」

私の発言に戸惑ったようなスガさん。
だってなんかこう良いじゃん。
敵だったあいつが今度は味方に…!とか少年漫画でよくあるやつじゃん。
と、そこまで頭の中で一通り言いたいことを言ってふと我に返る。
天才セッターの入部。
それは遠くない未来、試合でのセッターがどうなるかって分からなくなってくるわけで。
大地もちょっと厳しいんだけどさなんて隣で笑うスガさんを見上げる。

「ん?どした?」

私の視線に気づいたスガさんが優しく笑っていつものように私の頭に手を乗せる。
その手を取って両手で握るとスガさんはその手を反射的に引こうとする。

「蒼葉?ど、どうしたのかなー?」
『私、スガさん応援してますから。』
「ん?え?あ、おう!」

戸惑った様子のスガさんに言い切ったと手を離してスキップで同級生たちの元へ行く。

相手が天才だろうが、私は見てきたものを信じるだけ。
応援することしか出来ないけど、きっとそれが伝わることを信じて。