03


あの後、私の助言通りバカ正直に試合を申し込んだ日向くん影山くん。
今度の土曜の部活の日、三対三の試合をやることになった。
彼らの助っ人に田中が抜擢され、今その田中は私の横で手を合わせている。

「頼むって!」
『嫌だよ今だって起きるの精一杯なのに』
「じゃあ飲みもん!飲みもん毎日奢るから!」
『スタバのフラペチーノ』
「わざわざ仙台駅まで出ないといけねえじゃねぇかよ!しかも高ぇよ!」

そんな覚悟もなく私に頼み事をしてきたのか。
全く。
いつも朝練遅刻ギリギリの田中が鍵の管理を申し出たと思ったら私の元へ来て毎朝起こせと頼んできた。
その上片付けに時間を要することを考えて手伝いまでしろと。
私は影山くんたちが負けてもどうとも思わない、と思う。
それに三年がいる間正セッターをさせないのであれば、スガさんの綺麗なセットアップを見ていられるからむしろそれでいいと。

なぁ頼むよなんて懇願されるが普段の行いが悪いので腹が立つ。

『私が寝坊しても私のせいにしないでよ』
「押耳様!!」
『普段からそうやって媚び売っときなさいよアホ坊主』

私の言葉に少し怒ったようだがすぐに悟ったようにヘラーっと笑ったので鳩尾あたりを殴っておいた。



片付けと着替えを終えて幼馴染からのメールに返信していると後ろから駆けてくる音がする。

「蒼葉!」
『スガさん』

呼ばれた声に携帯の送信ボタンを押して顔を上げる。
走ってきたのか少し息の上がってるスガさんは直ぐに私の横に並んだ。

『あれ?みんないいんですか?』
「いいのいいの。送ってく。」
『いつもありがとうございます』

軽くお辞儀をするといえいえこちらこそなんてスガさんまで頭を下げてくるから思わず吹き出す。

『それ何キャラですか?』
「お互いまだ気を使ってる感じのママ友」
『それ新キャラですね』
「この前登校中に見かけてさ、あ!これもらった!って思った」
『もらったって』

スガさんはよく分からないキャラになるのでツッコミ慣れた。
楽しそうに笑うのでこちらも楽しませてもらっている。

スガさんとの帰り道は会話が絶えることが無い。
私が見ることは無い大地さんの普通の姿とか、私がいない時の同級生たちの様子とか。
昨日見たテレビの話なんかもしてくれる。

テレビはあまり見ない方なのでそういった話を聞いて新しいドラマを知ったりする。



『スガさんと話してるの楽しいです』

私がそう言うとスガさんは照れたように頬をかきながら笑う。

「俺も。蒼葉と話してるのすげぇ楽しいよ。」

じゃあまた明日な、と言っていつものように私の頭を撫でて走っていく。
あぁもう着いてたのか、なんて少し寂しくなりながら玄関の鍵を回した。