Under Darker

 第2章極夜の間奏曲

あとがき
*前しおり次#

 本作品を読んでくださってありがとうございます。皆様にはこの作品は、どのように映ったことでしょう。
 幻生げんせいたちと人間たちの戦い。その中で一番、現代社会では顕著けんちょだろう学校の怪談を主体に物語を書きたいと思ったのは、白夜章の中盤からでした。
 学校は「昼」、安全な場所であり、学びの場であり、規律を重んじる場です。
 しかし「夜」となると、そこはこの「Under Darker」の世界では危険な場。幻生たちの巣窟となるでしょう。
 まさに、昼と夜の種族に別れてなお、現代まで戦い抜くこの世界観にぴったりの敵ではないか。そう感じて物語を書き進めました。
 白夜章から手放した手綱たづなはどこにいったのでしょうか。のびのびと動き、話は脱線。日常さながらの会話も多々登場し、真面目さなんて所々にしかない内容に、葉月も妹も手を焼きました(笑)。

 そんな今回のテーマは、「過去」と「表と裏」。そして「信頼」でした。

 個人的な話ではありますが、葉月は中学校時代、友人以外のクラスメイト、そして担任に、あまりいい思い出がありません(苦笑)。
 葉月を助けてくださった恩師は、ほとんどが高校の先生です。そういった恩師に隻が、中学時代にもし出会えていたら。そう思って創り上げた糸川先生の過去に、皆様は早々にお気づきになられていたかもしれませんね。
 隻でさえ途中で気づいて、「あの人は違う」と、必死に違う可能性を考えていました。
 もし本当に違っていたら。それは隻にとって間違いなく嬉しかったものだったと思います。

 ではもし違うと信じたまま、糸川の過去に触れなかったら。
 果たして二人は、今までのままでいられたでしょうか。

 理解できない世界、誤解しているもの。沢山世の中にはあり、葉月も自分でまだまだだなと感じる部分が沢山あります。
 それはきっと、現実だけでなく、小説の中のキャラクターにも言えることで。
 ――きっと葉月も、そして妹も。作者であっても、私たちは彼らのことを十パーセントも理解していないと思います。

 自分が抱いている相手像が、ひょんな拍子に変わってしまうことは怖いです。見なくてもいいのではと思う時が、たまにあります。
 知るのも見ない振りをするのも、きっと優しさで、自由で、甘えで、厳しさかもしれません。
 それは白夜章でも触れた「価値観」も、関わってくるお話になるでしょうか。


 実は、リメイク前の本作品ではあえて触れなかったことがあります。
 こちらはリメイク後に新たに追記した範囲となります。本編のネタバレになりますので、大丈夫な方はこのままお読みください。

―*―*―*―*―*―

 糸川先生の話です。
 彼は隻が幻術使いだと気づいた夜の最初の侵入時の後、隻に自分が犯人だと気づかれても構わないと思っていました。
 本当なら他の先生がやったものと偽れたはずです。彼らの動きを知っていたのですから、とぼけることもできたでしょう。
 けれど彼がやったことは、自らの犯行を認めるのと同義の「隼の友達の行方不明」を隻に伝えたことでした。

 真相に気づかれたなら。間違った自分に引導を渡してもらえるなら。それで終われるならいいと、糸川先生は思っていました。
『まさか自分の教え子が、最初で最後かもしれない、救えたかもわからない生徒が、会いに来てくれると思わなかった』から。
 それが『どれほど嘘のような現実』で、『どれほどの希望』で。『どれほど救われたかわからない』と同時に。
 今までの自分がやってきたことが、自分の心の甘さが、どれほどに黒く汚くみにくく見えたことでしょう。

 真っ直ぐな人はまぶしいです。見ていて苛立つ人もいるでしょう。劣等感を持つ人もいるでしょう。
 糸川先生にとって、隻はそういった人間へと――自分が目指していたその場にいるような、『眩しい存在』になっていたのではないでしょうか。
 同時に「自分が折れなかったなら」と、あの再会でどれほどの後悔を抱えたことでしょう。

 もし糸川先生が重ねてきた過去を隻に気づかれなかったのなら。
 このまま今年を終えて、一人静かに怪談の世界に身を投じて、物語を終え、自分が最後の犠牲者となって幕を引くつもりでいました。
 それが「自分に感謝を示してくれた生徒」への、最期さいごのけじめになるならと。

 それほどに、糸川先生は「自分はそんな人間じゃない」と隻に示そうとしました。
 もう同じ目で見てもらえなくなることを覚悟の上でした。同じ目で見てほしくないとさえ思っていたかもしれません。
 しかし隻はなおも「先生」と呼んでくれる。
「第一章 白夜の夜想曲」の、千理が永咲に「師匠」と呼ぶように。
 結局、真実に一度折れかけたのに、それでも自分を追いかけてきた隻に根負けする糸川先生でしたが、それもまた、隻が途中で諦めきることがなかったからかもしれませんね。

―*―*―*―*―*―

 最終章、「夢幻むげんの交響曲」では、ついに翅があの宣言を。そして未來に異変が。悟子は受験に……はてさて、合格したのでしょうか。
 隻もまた、新年度を向かえて衝撃の事実に――

「忘れてた……帰ってきてたこと全っ然連絡してなかったな……」
「……はい?」

 ……天理の爆弾発言に、千理たちと共に固まったとかどうとか。本当レーデン兄弟は(万理をのぞいて)シナリオブレイカーです……くそう。
 最終章も作者二人が手綱を引くひまなし。勝手に爆走する面々相手にてんやわんやな最終章も、何かお心にめていただけるものがございましたら幸いです。
 ここまで読んでくださってありがとうございます。続章にてまた隻たちにお会いいただけるよう、また葉月も頑張ってまいります。


平成25年4月 後書き執筆
ルビ対応・加筆修正 2021/04/02


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