ひとまず改めてわかったことがある。
海理は横暴だ。いや、レーデンという家の再会は穏やかではないようだ。
やっと海理と合流し、十年前と性格が変わらない弟に、相手が二十歳を超えていようが気にせず折檻という名の体罰を振るう彼から目を背けるように逃げた。
いや、介を探しに出た。
海理たちレーデン兄弟に関しては、大和と佑理がついているから大丈夫だろう。とりあえず海理はもう二度と怒らせたくない。怖い。
介の捜索のためにと力を貸してくれることになったアレンは、金属鎧の音を響かせていて、悠里から苦い顔をされていた。本人は慣れた顔で、境途の日本家屋の街並みにそぐわない西洋の格好で歩いている。
「介がどこにいるかだろ……? 介の昔の仲間、カナデの兄貴なんだよな? もう一回そいつ見つけて会ったかどうか聞いてみたほうがいいんじゃねえか?」
「そうしたいんだけど、この街がゲートだらけってことなら、介さんを早く見つけたほうがいい気がするのよね。介さん一人じゃ対処するにも限界ありそう」
奏自身は、兄に色々と聞きたそうだけれど。悠里が「そういうこと」と短く相槌を返している。
「介のことだ、上手くやってるとは思うが……あいつ、
うんと、鏡も頷く。
前を見据えて、やっと表通りに戻ってこれた今。
「怒るためにも、早く見つけなきゃ……だね」
「――おう。しっかりわからせてやってくれよな」
アレンににっと笑われる。あっと気づいた鏡は、優しく笑んで頷いた。
やっぱり、アレンにとってもう介は、仇ではないのだろう。その理由を聞くよりも、今は彼の言う通り、介にしっかりわからせるために彼を探さなければ。
「ゲートの巣窟だ。襲われたらひとたまりもねえ、できる限り集団行動、単独行動は慎むこと。罠の心配はないから最低限の周囲の警戒で構わねえ。……いいな?」
「はい」
「私、術に備えます、ね」
「攻撃来たら任せろよ!」
力強いアレンの言葉に、自然顔が綻んだ。
「うん、よろしく」
表通りだけでなく、時折裏道らしいところにも入って、すぐに出ることを繰り返す。深入りせず、介が行きそうな店をそっと外から覗いたり、冒険者の店なども顔を出して介を見ていないか尋ねた。
介が後から聞いたら怒りそうな聞き方も何度かした自覚はある。やったのは主に悠里だけれど。
中央の通りを、海理たちがいるだろう地点まで引き返しながら、傾き始めた陽を見上げて鏡は呻く。
「この地区じゃないのかな……」
「もっと奥かもな……」
「奥に行くなら、境途に詳しい海理さんたちに、踏み込んで大丈夫かどうか聞いたほうがいいと思うけど……あれ、御影?」
路地裏へとふと目を留めた彼女は、不思議そうに首を傾げている。
「今何か音、したような……」
「――え? あ、あれ、あの人……」
奏も何か見たのだろうか――
黒のヴェールを被った、黒の踊り子とも取れる女性が、路地裏に姿を消した。
鏡は目を見開く。慌てて悠里へと目を向けると、彼は違う方角を見て目を見張っているではないか。
「俺こっちを追う! そっちは任せた、多分千理が探してる奴だから大和か海理サンに連絡とれ!」
こっち!?
「え、ちょっ、悠里さん!?」
「え、えと、連絡ですか!? ひ、一人は危ない、ですよ――!?」
「あ、オレ連絡しとく!」
アレンがメールを入力する中、悠里は御影たちが目を留めていた路地の反対側へと飛び込んでいった。鏡は奏へと振り返る。
「僕も悠里のほうに行きます! アレンくん、御影たちをお願い!」
「おう、任せろ!」
「き、気をつけてね……!」
御影やアレンへと頷き、悠里を追い路地に飛び込んだ。薄暗い通りのすぐ先で辺りを見回している彼は焦りを滲ませている。
路地に足音も、ましてや介らしい人影もない。女の子が一人、淋しそうに泣いているだけ――
ひた
かすかに聞こえた音に、鏡ははっと辺りを見回した。
ひたひたひた
ひたひたひたひたひたひたひた
ひたひたひたひたひた
ひた
ひたひたひた
ひたひた
ひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたひた
あちこちから聞こえてくる音に背筋が粟立つ。息を呑む。悠里も冷や汗を滲ませて、乾ききった笑いを漏らした。
「ははっ、こりゃ一杯食わされたかな……」
「言ってる場合!? どうするの!?」
「いざとなったら逃げるしかねえけど……無理だな、逃げ道がねえ」
ひたひたひたひたくすひたひたひたひた
くすひたひたひたひたくすひた
ひたひたくすくすくすひた
くすひたくすくすひたひたくすくすくすくすくす
くすくすくすくすくすくすくすくすひたくすくすひた
女の子から聞こえてくる笑い声に、目が背こうとする。
背けていられない。わかっているのに、見ようとしたくても見れない自分がいる。悠里が顔をしかめて、女の子へと視線を落とした。
「お兄ちゃんたち……まだ輝石、持ってるんだね――」
うっとりとした声が、背筋をぞっと逆撫でる。
「いいなあ、綺麗な石……どうして壊れないの? 壊したいなあ」
ねっとりと、甘美を含んだような声が、べったりと、口を開いて笑ってくるような。
「壊れちゃえばもっと綺麗になるかなあ」
「不用意に声かけなくてよかったぜ……神崎≠フ仲間入りだけはごめんなんでな、全力で守らせてもらうぜ?」
鏡もブレスレットを見下ろし、女の子を睨んだ。まだ十歳も迎えていなさそうな子が、壊れたように笑い続けている。
こんな子まで、ゲートになっている街があるなんて。
これが境途……!?
「そんなの淋しいなあ。こっちに来てよ、お兄ちゃん!」
光の
「お断りだ!」