何度も魔物を狩り続けた。さらに一週間経った頃には、介もやっと覚悟が決まってきていた。
諦めではない。周囲の人が、「今まで優しかったのに」、「自分を守ったからこんなことに」と崩れていく姿を見たくなかったのだ。
未だに、介の手元にある魔術書の中に攻撃的なものはほぼないに等しい。少なくとも怪我を与えられても、それが致命的になるような威力のものはほぼなかった。
致命的になりうる威力を平然と振るうのは神崎のほうだ。
覚悟が決まり始めても、神崎のやり方は気に入らないのだ。あいつは近くで泣き崩れる人がいる中で、平然と槍を魔物の心臓に突き立てる。闇の縄を使って首を締め上げる。恐怖に
あんなやり方、許されるものではない。彰吾たちが注意をいくら促しても全く直す気はなかった。
この辺りでは神崎は、悪魔の子という通り名で知られているそうだ。
今日も神崎は食事を採るとすぐ、仲間と碌に会話もしないで部屋に上がっていく。介は彼を睨みつけて見送った。女性陣も眠気を訴えて部屋に行ってしまい、カルフがまったくと言いたげに溜息を溢している。
「ここ最近の神崎の行動は目に余るな」
「おれが入ってきてからですか?」
「いや、その前からも度々な。遺跡に行けば手に入れた古文書を読み漁り、大人しくなっていたが……神崎の凶行を見ても仲間に留めたがるのは、彰吾と羽委ぐらいだな」
「……カルフさんは、神崎の人嫌いの原因を知っているんですか?」
聞き及んでいると、カルフは頷いていた。
「妹君のことだったかな。だが正直、私は疑問を持っているよ。もし妹君のことがきっかけならば、魔物に対してあんなにむごいとどめは刺さないだろうと思うのだよ」
「――おれもそう思います。彰吾さんが言ったことは一割真実でしょうけど、九割は願望だと思います」
神崎のオカルト好きのきっかけも納得した。人嫌いの理由も理解できた。だがそれと魔物は別問題にしか見えない動き方なのだ。
神崎とずっと一緒にいることで随分と思い出してきたが、あいつは
隠れてやっていたとは言っても、介はそれを見たからこそオカルトの知識を披露するなと釘を刺したのだ。元々神崎は介に勉強面で勝手に張り合ってきていたが、それに拍車をかけたのがオカルト知識の件だったわけで。
――何かがおかしい。少なくとも、妹の死を
彰吾が食器をカウンターに下げて、戻ってきた。どうにも考え込んだような表情に、介は目を瞬く。
「――カルフ。そろそろ考えてるんだが、いいか?」
「もう行かせる気か? 羽委の時は二ヶ月ほど待ったはずだが」
「介の魔術のセンスはかなりいいからなあ。多分俺あと二ヶ月で抜かれるよ。それにここから東響に行けばその二ヶ月だ」
東京と同じ読みの街がこの世界にもあるのか。なんだか、似た名前の街が多くて不思議な気持ちになる。
「ユズもヴィニアも中堅やってくれてるし、神崎がいれば後ろの防御はほぼ必要ないからな。連携ミスも目立たなくなってきたし、連れて行っていいと思うんだよ」
介がまだ一般職に就きたいと思っていることを、彰吾は気づいていないのだろうか。カルフがしばし黙考し、介を見やってくる。
「遺跡に潜ることについて説明をしていなかったな。遺跡の中では魔術が手に入る。最奥に辿り着いた者に恩恵が与えられるのだが、私たちのパーティでの教習のようなものは、これで最後になる」
「――え?」
彰吾が苦笑して、介の隣の席に座ってきた。
「今回行こうと思ってる遺跡は、東響っていう地域にある遺跡だ。この辺りの遺跡は難易度が高すぎて危険だからな。東響の遺跡を無事クリアできたら、東響の雰囲気と境途の雰囲気、好きな街でどう活動したいかも一緒に見られる。お前が魔術を手に入れて、それが今後やりたいことに繋げられるものだったら一石二鳥だろ?」
冒険者として続けさせるために、遺跡に向かうと言ったわけではなかったのか。
介はしばらく黙考して、やっと頷いた。
「わかりました」
「よし。じゃあみんなにも話通してくる。ま、遺跡までは気軽な旅行と思って楽しもうな」
「は、はあ……」
今日も言い出せなかった。そういうことをしなくとも、とっくに一般職で働けるように、準備を少しずつ進めていることを。
冒険者という仕事が嫌いというわけではない。人から感謝されることだってある。苦しいことは沢山あるけれど、別に苦というものではなかった。
人を殺さなければいけないということ以外は。
それを吐露した相手が悪かったというのもあるけれど、神崎はこの話を聞いた時、平然と言ってきたのだ。
「ここが日本だとでも思ったか? 誰でも武器を持っている世界で、日本の法が守ってくれるとでも? とんだ
あいつの考え方の中で、唯一
彰吾が介を一度冒険者の中に引き入れて鍛えさせようとしていたのも、いざという時自分の身を守れるようにという配慮だったのだろう。今ならそれがよくわかる。
遺跡に行ったことがあるというだけで、きっと街で働く上ではステータスが違って見られるのだろう。介が困らないように、あえて配慮してくれていたようだ。
――ここまでしてもらっているのに、抜けられるだろうか。
黙考する介に、カルフは優しい目で笑っていた。
「介はどうやら、自分の意見を持たない機会が多すぎたようだな」
「え? いえ、そんなことは……」
「機械的に勉強を続けていなかったか? 例えば、言われた内容を言われた期限までに終わらせるという作業のようなものだな」
目を丸くした。的を射抜かれたようで、介が固まる様に、カルフは優しく笑っている。
「以前彰吾に、嫌なことは嫌だと言っていいと言われて、やっと口にするようになったが。どうやらそれも、まだ本心を全て出したものではなさそうだ。彰吾を時折部屋から追い出すのも、自分を保とうとして爆発しているのだろう」
見透かされたような言葉に、介はただ固まってしまう。カルフは苦笑いを溢していて、まるで子供を見守るような目だった。
「神崎ほど直球にとまで行かなくとも、言いたい時に自分の意見を言うのは大事なことだ。今回の遺跡行きも、無理やり自分を納得させて行きたいと言ったわけでないのならいいのだが」
「……無理やりじゃありません。みなさんが、おれのためにと思ってくれているのはわかっていますので」
「そこだ」