ガシャン。
食器が割れるような音に、シャワーから戻ってきた鏡は目を丸くした。
今日はゲームで言う
御影の驚いた声に、怪訝な顔でまた扉を開けることになるとは。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あーあー……」
悠里の
「……あれ、これ
「な、なんでもないです大丈夫割れてないしお皿無事だし! 御影ちゃん変なこと言わないっ」
「え!? え、あ、は、はい……」
御影……。
「天然って凶器だねえ……」
「さっき俺もやられた」
「え? あ、え……?」
おろおろと周囲を見渡す御影に、苦笑いが零れてくる。奏は野菜が入ったボウルの前にサラダ用の皿をぐったりとしつつ置いていた。
「心臓に悪いわよもう……!」
「悪いな、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……お皿割れなくて本当よかった……」
本当によかった。怪我した人もいなくて。
「ま、不意打ちだったのもあるだろうがあんま無理すんなよ?」
「は……ふ、不意打ちじゃないですっ」
悠里も介も生暖かい顔で奏を見やっていた。
介の表情を最大限殺した顔が、鏡へと向けられる。
正直、言いたいことも気持ちもわかった。嫌というほどわかった。
「鏡くん、どうにかしてくれ」
「あはは……無理です」
「……どうしたものかなあ」
「僕だってどうにかできるならどうにかしたいですよ」
苦笑いが精いっぱいだ。御影が不安そうにする隣、悠里が作ったオムライスを運ぶ。
「え、わ、私ダメなことしちゃった……?」
「えっと……ううん、なんでもないよ」
介もサラダを運ぶべく歩いていて、苦笑いされた。
「これから君一番苦労しそうだもんねえ」
「本当に……自覚したくなかったですよ、ほんと」
「それもあるから
「アレンか……」
さすがは元アレンの指導者だ。生暖かい表情に頷くも、御影はわかった様子がない。最後の皿を持ってきた悠里と、奏もサラダを作り終えて戻ってきた。途端に目を輝かせる彼女に、悠里はにやりと笑んでいる。
「わあ、美味しそうっ」
「本当美味しそう……」
「トマトソースはチーズ入りにしてある、オムライス自体の暖かさで溶ける仕組みだ」
「チーズ!?」
奏さん、チーズ好きなんだ。
御影が
「手が込んでるねえ、いつも以上に」
「期待されちゃ、それに答えなきゃだろ?」
ああ、そういうことか。介と二人で納得し、なんとも言えず笑みを浮かべる鏡。奏は嬉しそうに礼を言っていて、悠里は肩を
もうわかりやすすぎて、苦笑いが出そうだ。
「現金とでもなんとでも言いたきゃ言え」
「いや現金なのは君じゃないよ」
「よくわかんねーけど、お前の明日のフレンチトーストは生クリーム大盛りだな、了解」
「っげ……なんだよその組み合わせ」
御影のくすくすと控えめな笑いに、鏡は内心首を捻った。
もしかして御影も、奏が悠里を好いていると見抜いているのか?
……それは、ないか。彼女の
全員で
見た目以上に美味しいから、胃にどんどんと入っていく。レストラン風の盛りつけと食材のサラダに、すぐに奏が作ったものとわかった。スライスされた
パフェがあると言った悠里の言葉に、奏が目を輝かせている。「よく食べる代表だよね」と、介に茶化された悠里と奏を、御影がくすくすと笑っている。
奏はうっと苦い顔をしているけれど、彼女の運動量を考えれば当然だ。
食べ上げた鏡は笑いを堪えて
「ご
「おう」
「はーい。……私も走ろうかなあー……た、食べすぎてるかな……」
「いつも
奏の心に五寸釘が刺さったように見えたのは、気のせいだろうか。悠里はサラダを突いて、肩を竦めている。
「『いっぱい食べる君が好き』、っていうフレーズあったろ。作ってる身からすりゃ、美味しそうに食ってくれるのが一番嬉しいのは、作り手であるお前もよくわかるだろ?」
……。
一瞬で固まったのは鏡だけではなかった。介も耳を疑い、御影だけが空気の意味に気づかず不思議そうに見回している。
奏が困惑して、目を瞬かせていた。
「そう、ですね……あの、楯山さん……ど、どうかしたんですか?」
「ん? どうもしてねえけど?」
どうもこうも、どうかしているだろう。
そもそも悠里がこんなこと言う日が来るなんて思ってもみなかった。鏡に対しても、自分の兄に対しても、ついでに悠里自身の幼馴染に対してだって絶対こんな話は振らない。
本当に、昨日から彼はどうしたのだろう。奏が嬉しそうにはにかんでいる中で、なんとなく見えてきたものがある。
「――いえ。ありがとうございます」
「だから礼言われるようなことじゃねえって……」
「素直に受け取っておけば?」
「……えー」
なんとなく気だるそうな様子を見せる悠里に、奏が
「楯山さん恥ずかしがり屋なんですか?」
ああ、また始まった。悠里がにやりと笑い返している。
「へー、そう見えるんだ?」
本当、同族。
生温かく笑んでいると、介が呆れた顔でオムライスを口に運んだ。
「そうやって挑発してるとやり返されると思うけどなあ」
「……ですね……悠里完全にいじめっ子の顔になってますよ……」
神妙な顔で頷かれる。
諦めよう、か。その通りにしたほうが
「えー違うんですか? お礼言われていつもそらしておいて?」
「ちげぇよ。つーか別に礼言うようなことじゃねーと思うけど?」
「本当似た者同士だよね、二人共」
「どこがだよ」
「どこがですか」
途端に顔を見合わせる悠里と奏。介が白々しいと言いたげな目で見ている。
この時間には珍しく、彼の皿は綺麗に空になっていた。
「言うこと
「あ、はい。なんですか?」
「遺跡探索、シャッフェンさんも加わるそうだよ。自分で
彼女らしい理由だった。笑いながら頷いて、外に出るべく立ち上がる。
御影と目が合うと、彼女が柔らかく笑んでくれた。
「行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
日課となったランニングへと行く心が、少し軽くなる。
自覚した以上、これから心臓は鳴りっぱなしだなあと、靴を
――ううん、これまでも鳴っていたっけ。
御影を見る
前途多難だけれど、心は不思議と軽い。
「――うん。頑張ろう」