境界融和世界の幻門ゲート

第21話 03
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「答え、出ましたか?」
「うん。朝、つまり生まれて間もない頃は四つんい。昼、成人した頃は二本足。夜、晩年ばんねんには杖を突いて三本。こうじゃないかな」
「あー! それ、それですよ! くやしい!」
 途端に叫ぶ奏に、鏡は苦笑いを浮かべる。介が怒りを浮かべたまま振り返ってきて、鏡はというと人間のボタンを押そうとして力を入れていた。
「よっ……あれ、重いなあこれ。――はあ!」
 勢いをつけて掌底しょうていを叩き込む。ガコンとはまり込んだ石は、奥に入りすぎたのではないかと思うほど深く沈んだ。
 扉が重たく石と石を擦り合わせて動いていく。ほっと笑むと、御影が嬉しそうに笑っていた。
「鏡くんも奏さんも、ありがとう」
「奏さんのヒントがあったからだよ」
「そんなことないですよ。あーあ……解きたかったあ……」
「あはは……行こうか……悠里、そろそろ慎重しんちょうに行こうよ。さっきから罠がえげつないんだけど……落とし穴の下に剣山とか、槍が突き出るとか……僕や悠里じゃなきゃ避けられないよ? 介さんが怒るのも無理ないと思うよ」
「考えるの時間の無駄だし。こーいうのは任せるわ」
「だから――!」
 今度は奏から怒られている。介が目を据わらせて笑っていて、御影が怯えて鏡の後ろに隠れる。
 なんとなく、こうなるのは見えていたけれど。
「いやあ、悠里って本当バカだなあ。――あんまりそういうこと繰り返すんなら、次の遺跡は見送りどころか、遺跡行きからなしにするよ」
 ああ、こっちはこっちで龍の逆鱗に触れかけているようだ。
 悠里は「任せるっつったろ」と苦い声。
「こっちは頭回るようにはできてねーんだ。適材適所で頼む」
「頭使うより体動かせって家系だったから、そういうの無縁だったもんね……僕も御影に見せてもらったぐらいしか知らないから、簡単なのしか……」
「……気持ちはわからなくもないんだけどね」
 介の苦笑いに、奏が不思議そうに振り返っている。
「介さん頭いいじゃないですか」
「まさか。おれも元々は、こういう謎解きは大の苦手だよ。人の感情もろくに読む気なかったし、ましてや発想の逆転なんて面倒なことする気もなかった口だからね」
 介さんが?
 正直意外だった。彼の人付き合い嫌いは知っていたが、こうやって頭を回す謎解きは得意そうに見えたのだ。
 ただと、介は肩を竦めている。
「そうやってやる気がなかったら怒られたからねえ、あの人に」
 ――あ。
 奏へと向きそうになる目をそっと戻していると、介は苦笑いしている。
「実際に、全員が答えに行き詰った時は、そういうのが苦手な人の、ちょっとした一言で正解が出るなんてことはざらなんだ。同時に謎解きが得意な連中にばかり任せてると、いざ苦手な人たちだけで謎を解かなきゃいけなくなった時は、死を覚悟しなきゃいけない。自分が解くっていう気持ちを忘れずに吸収しなければ、味方を守ることもできないんだよ」
 介も、そういう経験があるのだろう。投げやり気味だった悠里が、若干ばつの悪そうな顔をしている。
「……わーったよ、後ろで吸収すりゃいいんだろ」
「そうだねえ。せめてそれぐらいはしてくれ。全員で帰るんだろう?」
 鏡は目を丸くして、ぷっと笑った。
 今回げ足を取られたのは、悠里だったようだ。
 ただ、その先の通路で御影がこけて、通路いっぱいほどの直径をもつ岩の球が転がってきた時は戦慄せんりつした。結局、介の忠告も聞かずに魔剣の力で岩壁を作って岩球を無理やり止め、悠里と奏が破壊するという力押しになってしまった。
「球形なんだから左右の隙間に入るように、体を壁の隅に沿わせて寝れば避けられたんだよ……武器でかさばってる人そんなにいないからできたのに」
 壊してやっと、介が脱力して教えてくれたのは言うまでもない。
 随分と通路を進み、罠がないかどうかは悠里と奏が調べてくれた。広々とした部屋に到着し、最奥の扉へと近づいていく悠里。奏が周囲を見渡している。
「……なんにもない部屋……罠ないといいけど」
「こんなとこで罠あったら蜂の巣になるだろうぜ、逃げ場ねえし」
 想像したくない。殺風景で何もないと、そういうデメリットもあるのかと苦い顔になる。
 遮蔽物しゃへいぶつがないのは確かに怖いなあ。
「一応見た限り、それらしいものはなさそうなんですけど……」
「あ、扉に魔石、埋まって、ます」
「ほう」
 エルデの目が光った。近づいていく御影は、途端に首を傾げた。
 くぼみは七つ。そのうち三つに魔石が埋まっている。六角形を描くように配置された窪みは、対角線上に線を入れられ、線が交わった中央にまた窪みがある。
 ――三つの魔石は、一番上にオレンジ色の光を灯した魔石。斜め右下に赤い光の魔石。斜め左下には、黄色の光を宿した魔石。
「……これ……」
「属性相関図ですね。恐らく、正しい属性の魔石をあそこにめればよいかと。中央は生命でしょう。全ての属性に対して、力の増減が起こらないのは生命だけです」
 エルデに頷き、鏡は周囲を見渡してあっと目を見開いた。
 扉の左側に魔石が二つ。無造作に、テーブルのような台座に放置されている。
 扉の右側へと走っていった御影の手にも、魔石が二つ。全て内包する属性を示す色が違う。
 既に嵌まっている魔石の属性は上が光。ならば対角線上の下に当たる部分は紫色の闇を嵌める。
 右斜め下の魔石は赤。火の対角線上、相反属性は水。左斜め下の黄色は地で、言わずもがな風を右斜め上の窪みへと嵌める。
 生命である白を、中央の窪みに嵌め込んで、目を丸くした。
 刻まれた対角線に、属性を示す光が走る。中央の生命へと流れ込んだ色は虹へ、白へと変わって輝き、扉が開いた。
 また通路。けれどすぐ目の前に扉がもう一つ見えた。壁にも見えるそれは、窪みのような取っ手が設けられている。介が生暖かい顔をしていて、仕掛けがあるとはまた違う扉なのだろうかと察した。
 悠里がああと、納得した顔で取っ手に手をかける。奏が足元を見やってぽかんとした。
「要は――こうするってことだろ!」
「あ」
 ……。動かない。
 扉が重いわけではなさそうだ。動かなかった。
 悠里がじっと自分の手を見下ろしていて、鏡が生暖かく笑んで彼に退いてもらった。
 試しに自分が取っ手に手をかけ、スライドさせようとするも、動かない。
「大丈夫、違う仕掛けみたいだよ」
「お前帰ったら稽古付き合え、まじで」
「疲れてるだろうし嫌だよ」
「あの、足元なんですけど……こんな場所に普通、窪みできませんよね」
 えっと示された場所を見下ろして、悠里と共に目が細くなった。
 見覚えがある。こういう窪んだ取っ手を取り付けられた扉は……
「……シャッターかよ」
「おれともう一人が必死になってここの解き方悩んでてね……おれを冒険者として育ててくれた人が、扉に蹴り入れて、足元の窪みに気づいたんだよ……」
 ああ、例の来栖くずみ彰吾しょうごさん。
「あとここ、破壊しようって衝撃与えたら、足元から水が流れてきたから」
「え!?」
「扉開けたら止まったけどね」
 慌てて後ろを振り返った。
 先ほど仕掛けを解いた扉は綺麗に閉まっている。
 ……窒息ちっそくしかねなかったということか。嫌だ。
「嫌なとこでデストラップ作りすぎだろ……」
「だから、遺跡って中のもの守るための設備なんだから、そういうものだろ」
 扉を持ち上げようとして、悠里が指を窪みにかける。
 ……。
 持ち上がらない。
 エルデが隣に立ち。鏡も隣に立って、三人で持ち上げたからか、錆びついて動きが悪いシャッターのような重さだった。悠里の肩が震えている。
 ……まあ、一人で持ったらこの数倍の重さだったろうとは思うけれど。石だし。
「……筋トレ……」
「……うん。したほうがいいかもね。悠里十分平均値行ってるけど……」
「大丈夫、そこおれも開けられなかったから」
「俺が開けられなくてお前が開けられるわけねえだろ!!」
「あの、誰か一人抜けてもらわないと通れないです」
 沈黙が走った。
 鏡が悠里をちらりと見上げると、凄い怒気を込めて睨まれる。自分が先に行けと言われた気がして、溜息をついて手を離した。
 従兄の腕が若干震えて、苦い顔になる。
「……悠里、先に行って。僕とエルデさんならまだ……」
「あ、というか楯山さんとエルデさん先に行ってもらって、私と風見さんで支えます? 介さんと御影ちゃんが間通れば安全でしょ?」
 とどめの一撃は、随分と大きかった。
 部屋へと入っていく一同を見送っていると、介がおかしそうに笑って振り返っている。
 薄暗い部屋に光源をもたらそうと、奏が詠唱を始めた。
「まあ、何はともあれ。おめでとう。ここが最深部だよ」
「――暗き道を照らす灯火となれ」
 光が、奏がつけている輝石つきのブレスレットからあふれた。部屋を煌々こうこうと照らす輝きが、介の奥を照らしだした。


掲載日 2021/03/19


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