据わっているのにはっきりとした翅の声。万理は淡々と食事に
結李羽が戸惑うのも承知の上で、隻は面倒くさいと露骨に顔に出した。
「お前暴走するだろ」
「え、かといってオレ隻さんたちとまた組むんすか? 隻さんのほうが嫌でしょ」
「すっげー嫌」
「ほらね?」
「ほらね? じゃない。隻がダメでも誰か
困り顔になった千理はしばらくじっと左腕を見て、不意に腕を形作る幻術を解いたではないか。
「とっくに師匠の幻術消えてますよ。確認するの面倒だったからしなかったけど、半年経った段階で想像ついてましたし。成長痛が何よりの証拠っすよ!」
「大して伸びてないくせに成長期を語るんじゃねえよ」
苛立った声音が誰のものだったのか、あえて言及されなかったのは、一家に一人は必要な技術の持ち主、
「ってわけで、こっちの件は問題なし。昔海兄たちが教えてくれた話みたいに、ほぼ皮膚が覆ってますしね」
「確かに教えはしたけど。そこを集中攻撃されたら
翅が千理の頭を勢いよく殴りつけた。そのまま一回転して衝撃を逃がした千理は、襖に足のやり場を封じられ、
「ちょっ……! 翅まっ」
「たない!!」
ズガン。
胸倉を勢いよく掴みあげられ、体が見事ひっくり返ったままの千理はそのまま畳に叩きつけられた。後頭部を強打した姿に、万理が
「兄さん、バカすぎますよ」
「ぃぃぃ……!」
聞こえていない。隻は溜息をつく。
「こいつの
『だな。てめーの
「まったくだよ」
翅の声が腹の底から響く。彼はそのまますとんと自分の席に着地し、卵焼きを口に放り込んでいた。
万理がもの凄く苦い顔になる。
「いっそ僕が、隻さんと結李羽さんのパーティに入りましょうか……?」
「どこにも所属してなかったのか!?」
「はい……正確に言うと、元々グループを組む必要がない部隊に所属していますので」
苦笑いする万理に、天理は意外そうな顔だ。
「そういえば万理の所属、聞いてなかったね」
「
隻の固まった顔に、響基が苦笑する。
「隻さん、工作班は何も、記憶操作がメインってわけじゃないよ」
「え、は? そうなの?」
「はい。僕も記憶操作はできますが、どちらかというと
「そ、そうだったのか……」
「――結局、隻どこ入りたい?」
そうだった。パーティ
頭を抱え、苦い顔になる。その向こうで千理が「え」と間の抜けた声を上げる。
「隻さんの気質的に
「いらないだろその称号。誰がブリーダーだ」
「いやでも、そこしかないとは思う……」
遠慮がちな指摘をする響基に、翅も頷いて遠い顔。
「
『妖精見えたことねーだろこいつ』
「だよね? でも
「勤務時間と隊は
「縁道と一緒に働きたいの?」
「ごめん聞かなかったことにしていいか?」
「うんどうぞ。時間で言ったら一番宵がいいんだけどな。そうなると俺のパーティに入る形になりそうだし」
「あのぉ……」
結李羽がそろりと手を上げている。どーぞと、翅が手で示し、彼女も手を合わせて礼を示した。
「えっとね、その場合あたしはどうなっちゃうのかな? 別の人と組んだほうがいい?」
「そんなことできません!!」
スパアンッ!!
勢いよく縁側から襖を開いた未來の必死の言葉に、隻は視線をそっと
言うと思ったけど、聞いてたのか。
「じゃあどうするんだよ。俺も確かに結李羽と一緒のほうが……何かと、都合はいい……けど……」
未來の目の輝きようが、怖い。
手を組んでまで何度も頷かなくてもいいのに、未来の目は光で満たされすぎている。
そして気になるのは、その肩でぐったりする
『はら……へった……とり……くそう、白尾を下ろしておくべきだったか……』
「ちょっ、怖いよ!?」
白尾ノ鴉が東京に留まってくれて本当によかった。
……今は未來の少女マンガを発見した目の輝きをどうにかしてもらえないだろうか。
「……うー……海兄は?」
『あ? オレはずっと政と組んでるぞ――言うなよ。死んで三日目でバレた以上不可抗力だ』
何も、誰もそこまで言及していないのに。
「いいなー政和さん。響基と交換したい」
「翅!?」
「響基、もうこっち来い。そいつ薄情すぎ」
隻の頭痛を催した顔を見ても、響基は救いの手と言わんばかりに目が輝いている。
ああもう、増えた……。
「天兄は?」
「おれは……そうだなぁ、海理のストッパーいるだろうし」
『おい』
「千理のストッパーまでやる前に、おれむしろ
未来の犯行を自供した天理に、千理は平然と「ですよねー」と頷く始末だ。響基がはたと気づいたようで、海理へと目を向けている。
「
『あのマザコンに何期待してやがるんだ? てめー』
「……否定できないけど、
『それ以外はオレと
『じゃあこうするぞ。天理、お前はオレと政のほう。千理は隻と結李羽と万理』
「うっげえっ!!」
「えっ、ちょ万理まで!?」
「かーいほーさーれた。わーい」
「まだそれ言う!? ひっでー翅マジで嫌い!!」
「おーおー嫌えば? 嫌っちゃえばー?」
えぐえぐと泣く千理の傍に海理が行く。弟を
『一々男が泣いてんじゃねーよ、うぜー。当面はこの形でやるぞ。仕事内容に合わせて人員は
「青慈に謝れ!!」
『あ? 知らねー。ひとまずそっちのパーティ代表、後で決めて多生の親父に伝えておけよ。事務手続き云々は後々だ。隻の部隊教育は……
天理がふっと笑んだ。一年間の付き合いで見抜いた隻は、その笑みが本人だけ楽しい
気づきたくなかった。
「どういうメニューで教えようかなぁ……」
「
「幻生の血も入ってるんでしょ。目覚めさせるのに丁度いい機会かなぁってさ」
席は顔を引き
隼を採血した鑑定結果も、幻生との混血だと
「まあ元々身体能力がかなりあるしさ。ちょっとした
「殺す気か!!」
「さあー未來ー響基ー。仕事の話に戻ろっかー」
「ああ、翅も一緒に鍛えてあげようか? アヤカリなしでかなり遊べるようになるよ」
「遊ぶのは響基で十分だから結構です」
「もう俺隻のパーティに行く!!」
「いいよ、来い?」
あまりにも
海理の呆れた目が、ちらりと時計を見上げていた。
『最初に話した件だが、明日また来るからその時にするぞ。どっちも予定入ってねーな?』
こっくりと頷く天理。隻も一応開いていると伝えれば、海理は『じゃ』と手を上げるとすぐに姿が消えた。
……。
ひと時だけ、食事の間に静けさが戻った。
「……相変わらず自分の用だけで……」
「
それは兄弟だからわかる話であって、初対面の人間であれば一切気づけないだろう一面ではないだろうかと、隻と響基は遠い顔になっていたという。