拾弐

こんにちは。遂に来ちゃったみたいです。ヤツが。もうすぐ攘夷組制覇なんですけど。




「蕎麦を頼む。」

ふいに聞こえた声に顔をあげる。…来た。遂に来たよ。なんか面倒臭いイメージしかないんだけど桂さん。
いやいや私はだだの店員。しかも今は厨房にいるし大丈夫のハズ。てか団子屋で蕎麦頼むか?ないだろフツーは。

とは言ったものの、実はこの店蕎麦がある。…饅頭だけど。そば粉を使ったもので、胡麻ダレと醤油ダレの二種類だ。近所の蕎麦屋さんで挽き立てのそば粉を分けてもらっているのだ。その為朝一の仕込みには間に合わないので、午後からのみの限定商品となっている。
ということで、焼き目をキレイにつけてタレを塗る。

あとはまさちゃんに…アレ?まさちゃんがいない。そういえばさっき、「お花摘みに行ってきますぅ」って言ってた。お花摘みってアレね。トイレのこと。育ちが良いと言うことが違うよね。
てことはコレ私が持って行かないかんのか。うっわ、もーなんだよー、こんなにフラグばっかりお腹一杯だよー。とも言ってられないので、そそくさと持っていく。

「お待たせしました。」
「む、すまぬな。」
「では、ごゆっくりどうぞ。」
「おい。」
…キタアァァ。
「……はい、如何なされましたか?」←諦め
「俺は蕎麦を頼んだのだが。」
「………はい、こちら蕎麦饅頭になります。」
「俺は蕎麦を頼んだのだが。」
饅頭しかねーよ。
「…ですからこちらがうちの店の蕎麦になります。」
「なんと、この店はかけ蕎麦も置いていないのか!?」
団子屋だからな。
イラつきは顔には全く出さずに、眉を下げ、非常〜に申し訳無さそうな顔をする。
「申し訳ございません。ですが此方の蕎麦饅頭、挽き立てのそば粉を使用した限定商品です。姿形は違えど蕎麦は蕎麦。お侍様?外見など、問題ではないと思いませんか?」
折角作ったのに文句言われて帰られたら堪ったもんじゃない。骨折り損のくたびれ儲けだ。
「姿形が違えど元は同じ。お侍様は外見なんて些細なものに囚われてはおりませんよね?」
「無論だ。」
「では、此方が当店自慢の蕎麦饅頭になります。どうぞごゆっくり。」
「いただこう。」
営業スマイルを張り付けたまま厨房に戻る。
チョロいな。

この後はまさちゃんが戻ってきてくれたので全て任せた。
やっぱり面倒な人だったな。