弐拾壱

こんにちは、ユキです。再びきました宅配便。差出人は高杉さん。桐箱に入った水羊羹でした。




「これ…江戸の広尾にあるお店の水羊羹ですよぉ!1日10個の限定販売で、1個3500円するんですぅ!!」
「3500円!?」

これ3500円もするの!?確かに桐箱だし、高そうだなーとは思っていたけどそんなにするとは。しかも1日10個とか。凄いな高杉さん。
実は最初の和三盆を使ったフィナンシェが届いて以来、何度か食べ物が送られてきていた。その度にまさちゃんと一緒に食べているのだが、まさちゃんの詳しいこと。どれを聞いても場所とどんな物かという説明が付いてくる。素晴らしいね、毎回テンションは高いけど。
そして、ほぼ毎回銀さんがいる。何故だ。

「前回も凄かったけど今回はまたすげーな。」
「銀さんには勿体無いんでぇ、そこで指でもくわえて見ててくれますぅ?つーか帰れ。」
「辛辣!!お願いしますゥゥゥ!!俺にも食べさせてくださいっ!!」
「はっ。」

毎回二人はこんな感じで仲が良い。最後はいつもまさちゃんが折れて(?)落ち着く。初めのときに食べかけのフィナンシェをあげたのが相当微妙だったようだ。
さて、落ち着いたところで紙紐を解き蓋を開ける。中には艶々と輝く水羊羹が敷き詰められていて、思わず魅入る。
スプーンで掬い、口に運ぶ。

「…おいし。」

言葉少なに感想を言うと二人も食べ始める。まさちゃんはともかく、変なところで銀さんも律儀だ。
ちなみに現在地はお店の奥、休憩とか荷物置きとかに使っている和室だ。二階が大将と女将さんの居住スペースになっている。
私の休憩時間に皆で集まっているのだが、まさちゃんは店番のハズ。だけど、お客さんもいないし、大将も女将さんも寛大だからいいのかな。銀さんも普通に入って来てるし。

「うまー。ほんと何もんだよこのストーカー。」

ストーカーじゃないってば。

「全国転々としてますしねぇ。」
「そっか、コレ江戸で売ってるんだよね?会えるかもしれないなぁ。」
「え、会うんですかぁ?」
「会えたらね。」
「おいおい、危ねーんじゃねーの。どっかのゴリラ女じゃねーんだから。」

お妙さんのこと?

「いや、まだお礼も言えてないんで。」
「「…」」

二人で顔を見合わせて微妙な顔をしている。まあ、危ないっちゃ危ないよね。過激派の攘夷志士だし。
その時まさちゃんがお客さんに呼ばれて渋々離脱。私もそろそろ休憩終わりだなーとか考えていると、銀さんがこっちを見てきた。

「あー、その、なんだ。」

なんだ。

「これ、渡しておくからよ。何時でも来いよ。初回くらいは無料にしてやっから。」

初回だけかよ。でもまあ、心配…してくれてるんだよなぁ?手書きの名刺を見ながら思う。

「…ありがとうございます。」
「おー。」




このあとすぐに休憩時間も終わり、お開きとなった。銀さんずっとあー、とかうー、とか唸っていたけれど気にせず私は名刺を凝視していた。
地図も何も書いてないから辿り着ける自信は更々ない。

そもそも高杉さんから逃げ切るなんて無理に決まってる。