弐拾弐

こんばんは、ユキです。帰るときまさちゃんが送ると言ってくれたけれど、寧ろまさちゃんの帰りが不安でしょうがないので遠慮しました。



今日はお土産に余った団子をもらった。やったね、今日の晩ご飯だ。栄養的に不安だから野菜ジュースくらい飲んでおこう。
手に持った団子の袋をブンブン振りながら玄関の扉を開ける。鍵は掛かっていた、電気も消えてる。しかし違和感。

ふわっと煙草の香りがした。

「よぉ」

この前と同じ場所に高杉さん。暗闇から急に声がしたので肩が跳ねる。

「、高杉さん…」

煙管をすぱーっとする高杉さんを見て思わず脱力。会わなきゃなーとは思っていたけどこんなすぐだとは。
電気を点けてカーテンを閉める。そうだ、お礼言わなきゃ。少し離れて、腰をおろす。

「、あの」
「…」
「お菓子、ありがとうございました。どれも美味しかったです。」
「ククッ、そいつは良かった。」

良かった、別に何か要求されたりは無さそうだ。いやまぁ、私に出来るようなことなんて大したことじゃないけど。ホッとして手元を動かすとガサリと袋が鳴った。
し、しまったアァァ!!!

「テメェ、それはなんだ…」

黙って差し出す。いや、昨日はキチンと自炊してました!!だからその眉間の皺を無くしてくださいィィィィ!!!
心の叫びも虚しく、団子が現れる。

「いや、あの、今日だけですよ…?」
「…」

沈黙が辛い。視線が痛い。眼力ハンパない。私はすべてから逃げ出すように俯いた顔をあげることが出来ない。いや、別に高杉さんには関係ないことなんだけど、彼が私の食生活を案じてくれているらしいので何だか居たたまれない。

「…」
「…」
「…はぁ。」

なんかスミマセン。
高杉さんはゴトリと音をさせ、机の上に風呂敷包みを置いた。

「?」
「…んなこったろうとは思ってた。開けてみなァ。」

固結びされたそれを解いていく。中から現れたのは四角い立派な重箱。…まさか。

「お弁当?」
「あぁ、…知り合いに作らせた。」

マジでか。蓋を開けて再びビックリ。彩りが綺麗で、旬の野菜、魚が季節を感じさせてくれる。飾り切りや型抜きされた野菜たちが全体を飾る。これは凝ってる。素人のお弁当じゃない。

「美味しそう…」
「お前の為に作らせた。好きなように食え。」

お、おぉぉぉぉ。

「ありがとう、ございます、」

お礼を言っても私の目はお弁当から離れない。だって素敵すぎる。これじゃ飢えて見えても仕方がないかもしれない。

「ククッ。」

なんとなく気恥ずかしくなって視線を泳がす。立ち上がっていそいそと箸と小皿を取りに行く。全部は食べきれないから残りは明日食べよう。
自分の分のお茶を冷蔵庫から出し、マグカップにはティーパックにポットでお湯を注ぎ、温かいお茶を入れる。高杉さん用だけど飲むかな。

「高杉さん、お団子食べませんか?」

怪訝な顔をしてくる。お茶やら皿やらを運びながら尋ねる。

「今日の私の夕飯だったんですけど、こんな素敵なお弁当頂いちゃったんで。」

夕飯のところで眉間の皺が増えた。スミマセン。

「あ、持ち帰りでも全然構わないんですけど。」

いらないなら私の明日のご飯です。返事は特にない。まあ、いいやとお弁当に手をつける。!美味しい。高杉さんのくれるものでハズレって今のところない。世間には高いだけの商品なんて溢れているけれど、その中で本当に美味しい物って意外と少ない。高杉さんとは嗜好が似ているのかもしれない。きっと高杉さんは自分の舌で納得したものしか送ってきてない気がするし。

高杉さんはもぐもぐと一心不乱に食べ進める私を一瞥したあと、再び煙管を吸い始めた。その後私は前回と同じくお風呂に入って、刻み煙草の香りに促されて眠りについた。朝起きると、空のマグカップ。お団子が無くなっていたところを見ると思考を読まれていたらしい。お弁当箱は今度会えたら返そう。