弐拾伍

こんにちは、ユキです。今日はお客さんがなかなか引かなくて休憩をとるのが遅くなってしまいました。




「よぉ、また会ったな。」
「…」

私は再び定食屋に来ていた。というのも時間は三時過ぎ。お昼には遅いし、流石に会うことはないだろうと高を括ったのだ。見事に失敗したが。
扉を閉めた手前店を出る訳にもいかず、渋々カウンター席につくことにしたのだった。声を掛けられた手前、離れた席に座るのも可笑しいかなと思い、一つ席を開けて左隣に座った。
何食べようかな。今日はお昼遅くなってお腹空いたしな。お、コレにしよう。

「焼き肉定食ください。」
「はいよ。」

それにしてもこの人はえげつない物食べてるな。いやいや見るな私!これから私はご飯なんだから!

「久しぶりじゃねーか。元気だったか?」
「はあ。」
「今日は昼飯随分遅いな。フ、俺もお前のこと言えねーけどな。」
「はあ。」

話しながらだからか、食べるのが遅くなってる。早く食べちゃってソレを視界から消して下さ…イヤ、私は何も見ていない。

「焼き肉定食お待ち。」
「ありがとうございます。」

割り箸を割って味噌汁に口を付ける。うん、美味しい。早々にお肉に箸を向けたそのとき、視界の右端に赤い何かが映り、動きを止めた。
それは赤いキャップのマヨネーズで、机の上にそっと鎮座していた。マヨネーズと土方さんを見比べる。

「…」
「…」
「…」
「…使うだろ?貸してやるよ。」

マヨネーズを?使うとしても付け合わせのサラダくらい…。

「遠慮してんのか?気にするな、俺とお前の仲じゃねーか。」

名前も知らない仲ですが?会ったのは三回目ですよね。ちょっ!!蓋開けて構えないで!!あんたが掛けると半端ない物になるでしょうが!!!
軽く手で制す。

「あの、今ダイエット中なんです。」
「ダイエット?必要ねーだろうが。」

土方さん私の何を知ってるの?いや、此処は喜ぶところか?

「…、それでも、あの…」

今気付いた。焼き肉定食食べながらダイエットは無い。ガッツリだもん。

「フ、お前が気にしてんならしゃーねぇか。ほどほどにしておけよ?」
「あ、はい。」

マヨネーズを大人しく収めてくれた。良かった!
そのまま大人しく食べ始めた、が。なんか視線を感じる。

「…」
「…」

彼をチラリと見て、すぐにお肉に視線を戻す。いつの間にか食事を終えたらしい土方さんは、机に頬杖をついて身体ごとコッチを向いていた。…何で?

「…」
「…」
「…お兄さん、何か?」
「……トシだ。」
「は?」
「お兄さんじゃねぇ、トシって呼べ。大体歳もそう変わらねぇだろうが。」

歳はともかく、トシ?あ、いやダジャレじゃなくて。なんでそんな話になったんだ?

「…」
「…」
「…」
「…」

え、えぇぇ!?コレ呼ぶまで帰らないパターンなの?えぇぇ…。

「…」
「…」
「……トシさん。」
「さん?…まぁ今はいいか。」

今は?フ、と笑って土方さんは席を立つ。そのままレジに向かい、会計をして扉を開けた。

「またな。」

閉まった扉を、お肉をくわえたまま見ていた私は相当マヌケだったと思う。

その後食べ終わった私が会計を頼むと、既に代金は貰ったからと断られた。大将はいい笑顔で、さっきの旦那だよ、と笑った。