弐拾玖

日曜日。まさちゃんに連れられ辿り着いた美容院。化粧は自分でやってきたけれど、髪のアレンジはお任せする事にしました。



高い着物に袖を通して鏡を見る。うわ、こんな恰好成人式以来だよ。普段着と比べると柄も大きく色が華やか。帯も普段出来ないように結んで貰った。同じ着物でもこんなに違うんだ、と内心頷く。
着物の色が結構鮮やかなので、それに併せてのお化粧。まさちゃんに二度見されたので、ぱっと見誰かは分からないみたい。良かった、真選組って顔見知りだからバレたら恥ずかしいし。

まさちゃんのお父さんの後に続いて長い廊下を歩く。高級料亭なんて来たこと無いから緊張する。あー庭が綺麗だな、なんて軽く現実逃避をしていると、とある部屋の前で止まった。

「失礼致す。」
「は、はいっ!」
ガラッ
「遅れて申し訳ない!」
「い、いえ。此方こそとっつぁん…松平が急用で来れなくなりまして。代わりに参りました近藤と申します。」
「なに、そう堅くならずに!」

扉を開けて中にはいると始まったまさちゃんのお父さんと近藤さんの挨拶。席に座って前を見ると土方さんと総悟くんが。土方さんは居心地悪そうに呆れながら近藤さんを見ていて、総悟くんは…あれ?寝てね?下向いてるけど、アイマスクつけて寝てません?
あ、自己紹介?え、大丈夫かな。

「あー、土方十四郎です。」
「お!君が噂の副長さんか!なかなかの男前ではないか!なぁ、まさ!」
「はぁ、そぉですねぇ。」
「では隣は一番隊隊長の沖田くんかな!?」
「…」

そりゃ反応しないよ。寝てるもん総悟くん。まさちゃんのお父さんは気にしていないようでワクワクニコニコしているが、近藤さんがオロオロし始めた。

「あー、すいません。コイツ口下手な上に恥ずかしがり屋なもんで、目あわせると緊張しちまうらしいんです。」
「おぉ、そうなのか?」

フォロ方ァァァァアア!!流石!これで総悟くんは失礼な印象ではなくなった。というかやっぱり疲れてるんだな。

「うむ、では此方も挨拶せねばな。」
「あ、あの…」
「む?なんだい?」
「まさ殿、甘味処で働いておいででは?」
「あーはい。」
「なんだ?まさ、お知り合いだったのか?」
「はぁ、まぁ。」
「やっぱり!いやー、屯所の近くなものですから、我々もよく利用させて貰ってるんですよ!なぁトシ!」
「あ?あぁ。」

え、土方さん来るの?見たことないけど…。いやでも、まさちゃんが睨んでるからきっと知り合いなんだろうな。

「なんだそうだったのか!では、私が居たら余計な気を使わせてしまいそうだな。まさ、私は帰るぞ。しっかりやれよ!」
「はぁい。」
「では俺も帰る事にしよう。お妙さ…んん、警備に向かわねばならんのでな!」
「近藤さん、アンタ今なんて言った?」
「あとは若いもんに任せてってヤツだな!いやぁ、一度言ってみたかったんだよなぁ!」
「あー分かります!」

ワイワイと盛り上がりながら部屋を出ていく二人。残された私達がしばらくの間沈黙に包まれたのは仕方のない事だと思う。