参拾

「…」
「…」
「…」
「ぐー」

二人が部屋を出て行ってから微妙な空気に包まれている私達。え、どうすんのコレ。

「はー、悪かったなウチの大将が。」
「いいえー、此方こそクソ親父がご迷惑と御無理を申しましてぇ。もしかしてマヨ方さんお見合い乗り気でしたぁ?」
「誰がマヨ方だ。馬鹿言え、悪いが俺にはもう先客が居るんでな。」

みつばさん?みつばさんなの?はっ!もしや栗子ちゃんの方!?だってデートの時結構いい感じだったし!
マヨ型ライターでカチッと煙草に火をつけ、煙をふーと吐き出した。

「へぇ。ユキさん!料理食べましょぉ!!」
「え?あ、うん。」
「お前…興味無ぇなら振ってくんじゃねぇよ。つーかオイ総悟!いい加減起きやがれ!!」
「…ふぁーあ、なんですかィ土方さん。折角いい気持ちで寝てたのに。」
「うっせぇ!コッチはテメェの尻拭いまでしてやったんだからな。」
「流石フォロ方さんでさァ。で?結局どうなっ…」

目が合った。

まさちゃんに促されて軽く頭を下げてから視線を外し、料理を食べ始める。食べたことない料理ばかりだけど美味しい。高級料亭とは言っても完全な和食ではなく創作料理で、旬の食材を使ったものが多いようだ。

「あー?相手が団子屋のガキだったからな。見合い話は無しだ。」
「ガキとはなんですかぁ。こっちこそマヨラーのオジサンなんてお断りですぅ。」
「誰がオジサンだ。ちっ、総悟帰るぞ。」
「…」
「総悟?」
「え?あ、あぁ。俺はマヨネーズは使いやせん。」
「なんの話だオイ。帰るっつってんだろうが。」
「え?あ、俺は…」

ん?また目が合った。
お化粧変えてもやっぱり総悟くんは気付いてるみたいだ。流石は真選組一番隊隊長、少しの変装では騙せないみたい。え、じゃあ土方さんも気付いてんの?その割にいつもとは違うような…。というかコレ美味しい。

「もう少し此処にいやす。」
「はあ?」
「折角の高級料亭の料理ですからねィ、食べていきやす。」
「お前団子屋行くとか言ってなかっ…熱っっ!!何しやがんだテメェッッ!!」
「すいやせん、手が滑りやした。」

ん?あ、お茶零しちゃったのかな。大変、布巾…はないからハンカチ持って立ち上がり、総悟くんに近寄る。

「大丈夫ですか?」
「うぁっはい、すいやせん。ありがとうございやす。」
「(うぁっはい?)すんません。えーと、吉田さん?」
「あ、はい。」
「今日はすんませんでした。俺ら元々この見合い断るつもりだったんです。」
「いえ。彼女から聞いていましたので。」

あれ、なんか総悟くんがソワソワしてるぞ?もしかして総悟くんは乗り気だったのかな?すいません私で。
粗方拭き終わったのを確認して自分の席に戻る。いつまでも総悟くんを挟んで話していたら失礼だしね。

「ふっ。」
「?」
「あ、いや…すいません。随分落ち着いてるんでそのガキ…彼女との接点が見えなくて。」

まぁ確かにまさちゃんみたいな今時の子とは違うかもしれない。テンションとか若さとか。年齢的には土方さんに近いしね。
土方さんと総悟くんも、真選組って知らなかったらどんな関係?って思うだろうし。

「吉田さんも甘味処で働いてるん…」
「「いません/いやせん。」」

…何その連携プレー!?まさちゃんは料理を食べながら、総悟くんは椀の蓋を開けながら言った。

「同じ店で働いてるんじゃねぇのか?」
「違いますよぉ。ユキさ…吉田さんは私の遠縁のお姉さんなんですぅ。」
「そうですぜィ土方さん。吉田さんは普段は京のほうに住んでいるんでさァ。」
「なんでお前知ってんの?」
「だからぁ、ウチのお店来ても吉田さんには会えないですよぉ。」

…あ、そうか。土方さんはまだ私って気付いてないんだ。で、まさちゃんと総悟くんは私がバレないように化粧してきたことを分かってくれて、このまま気付かれずに終われるようにしてくれているんだ。…優しいィィィ!二人とも優しいィィィ!なんてお姉さん思いの子達なんだろう。ん?待てよ、もしかして私関わりたくないオーラが出ていたのだろうか。やっべー。

「つーか土方さん、さっさと仕事に戻ったほうがいいんじゃないですかィ?モグモグ、近藤さんは後で俺が回収しときますんで。」

近藤さんね…そういえばさっきお妙さんのところに行くみたいな事言ってたもんね。総悟くん寝てたからいつも通りの事なんだろう。

「おま…、頭でも打ったか?お前から志村んとこ行くって言うなんて…」
「ほらほら、仕事ほっぽりだして来たんでしょう。さっさと帰ったらどうですかィ。」
「お、おう、そうだな。後は頼んだ。」
「へい。」

そう言って土方さんはチラリとコッチに視線を寄越してから帰っていった。そっか、仕事忙しいんだもんね。ご飯も食べれないなんて大変だなぁ。