参拾弐

こんにちは、ユキです。あれから特に何かがあったというわけでは無く、今までと変わらぬ日常を過ごしております。




「すみません、お団子下さる?」
「はーい、いらっしゃいませー。」

天気の良い午後。お店に桃色の着物にストールを肩から下げた美人さんがやってきた。

あ、お妙さんだ。

「オススメは何かありますか?」
「やはりみたらし団子でしょうか。甘過ぎないですし、醤油の香りが香ばしくて。」
「あら、ではそれを10程包んで貰おうかしら。」
「はい。」

お金を先に頂いて、せっせと団子をパックに詰める。ほんと美味しいんだよね。みたらし。
ゴムをパチンとはめ、袋に入れて手渡すとニッコリと綺麗な笑みでお礼を言われた。

「以前、といっても大分前なんですけど、私が働いているお店にお客さんがお土産で此処の豆大福を持ってきて下さったんです。それがとても美味しくて。是非一度来たいと思ってたんです。」
「あ、そうなんですか?ありがとうございます。」

ゴリラ?それゴ…近藤さんの事なのか?
綺麗な笑顔の下に隠れている殺意が見えたような気がしてひくりと口元が引きつる。

「あ、姉御ー!」
「あら神楽ちゃん。」

外を大爆走していた神楽ちゃんと定春はブレーキをかけてから、お妙さんに走り寄った。

「何してるアルか?」
「ふふ、お買い物よ。神楽ちゃんはお散歩?」
「そうアル!ね、定春ー!」
「ワンッ」

ニカッと笑う神楽ちゃんと元気な返事をする定春。可愛いなぁ。
すると思い付いたようにお妙さんが手をあわせた。

「そうだわ。神楽ちゃん此処のお団子とても美味しいのよ。食べていきましょう?」
「マジアルか!?キャホーッ!!姉御太っ腹アル!」
「じゃあお団子2つお願い出来ます?」
「はい、畏まりました。お好きな席へどうぞ。」

定春も居るからと、店先の席に腰掛ける二人にお茶を用意する。定春にもお水あげよう。色褪せて使わなくなったお皿に水を入れる。それをコトリと地面に置くと、お妙さんがふんわりと笑った。

「あら、ありがとうございます。」
「お姉さんありがとネ。定春良かったアルな!」
「ワンッ」

神楽ちゃんもニコッと微笑んで、定春も嬉しそうに尻尾をパタンと動かした。うん、こんなんで喜んで貰えて良かった。
注文を受けて大将に注文を通す。私は出来た饅頭わーお客さんに運んだり会計したり。地味に忙しい中に響く女の子の楽しげな声。
二人は始終楽しそうで、神楽ちゃんは身振り手振り、お妙さんはニコニコと微笑ましそうにそれを見ていて。あー、やっぱ女の子良いわぁなんて危ない思考に陥りながら小一時間過ごしたのだった。