参拾陸

こんにちは。そういえば、先日痛々しい姿だった総悟くんはすっかり良くなったらしく、元気な姿を見せにお店に顔を出してくれました。少し安心です。





空は青く澄み渡り、雲がのんびりと流れる午後。店先で団子をくわえていつも通りぼんやりとしていた銀さんにフッと大きな影がかかった。

「あれ?坂田さんじゃありませんか。」
「ッッギャァァァァアア!!!」

あまりの大声にビクッと肩を揺らした私。洗い終わったお皿を拭いていたのだが、落とさなかった自分を誉めてあげたい。

「こんな所で会うなんて奇遇ですねぇ。」
「そ、そそそそうですね。」
「どうしたんですか坂田さん。汗凄いですけど…」
「い、いやぁ、アレですよ。ほら、今日は随分と暑いし!」
「え?あぁ確かに良い天気ですよね今日は。」

店先を見ると2メートルは有るだろう巨体。肌は緑色、大きな耳、尖った牙、そして頭上には一輪の花。…あ、見たことある。何だっけ…へ、へ…ヘドロさんだっけ。随分と話し込んでいるなあ。どうしよう、お茶を持っていって勧誘したほうが良いのだろうか。うーん。

「あれ?坂田さん、そのお団子美味しそうですね。」
「(た、食べる気だァァァァ!俺のこと食べる気だァァァァ!!)そ、そそそそそんな事ないんじゃないかなー、なんて…」

銀さんソレ店先で言うことじゃないよ。美味しそうでしょうよ。

「え?美味しそうですけど…。私も食べたくなってきました。」
「ぅえっ!?何を!!?」
「すみません、この方と同じものお願い出来ますか?」
「あ、はーい!」

注文が入ったので焼けた団子をタレに浸す。お皿にのせてお茶と一緒に持って行くと、屁怒絽さんは坂田さんの隣に腰掛けて雑談を楽しんでいた。なんだか銀さんが萎縮しまくってるけど。

「お待たせしました。」
「あ、ありがとうございます。わあ、美味しそうですね。」
「ありがとうございます。ごゆっくり。」

頭を下げて厨房へと戻る。なんか銀さんから凄い視線を感じた。
それにしても迫力あったなぁ。でも頭のお花は可愛かった。屁怒絽さんってコワい扱いだった気がする(銀さんめっちゃ顔が引きつってる)けど、私から言わせれば人型じゃない天人は大して変わらない。ほらあの、触角生えた紫の皇子とかも色がコワいし。
店の前を通る人が皆ビクッとして早歩きで通り過ぎる。その様子を遠目に見て、お客さんが来なさそうだなと悟る。
お皿を拭きながらゆっくり流れる時間に息を吐いた。

屁怒絽さんが帰った後、銀さんに小言を言われたのは少々納得いかない。