参拾漆
こんにちは。最近キャラとの遭遇率が異様に高いような気がするのは気のせい…ではないですよね。
「おや?ユキ殿ではありませんか!」
「ん?知り合いか東城。」
仕事が終わりの午後。久し振りに喫茶店に行ってからその足で街を散策していたときの事だ。雑貨を眺めていると後ろから声が掛かった。
「あ…えっと、東城さんこんにちは。」
なんで東城さんがこんな所に?というか隣に居る黒髪美人はもしや九兵衛さんでは?か、格好いいィィィィ!!え、何、美人さんっすね!
「こんにちはユキ殿!どうしてこのような所に?確かこの時間は団子を焼きながら食器を洗っている頃ですよね。」
「へ?」
断定的に聞かれた台詞に思わず疑問で返す。確かに仕事は毎日全く同じとはいかないものの、それなりに決まった事をやっている。だけど何時に何、とまで決まってる訳じゃない。当然、お客さんの入り用でも変わる事だから。
だとしても東城さんはなんでそんな事を知っているんだろう。
「なんで貴様が彼女の予定を知っているんだ。」
「若!なんですかその疑い深い目は!私、東城歩ともあろうものが若に恥をかかすような事をするはずがありません!」
「ほう?では言ってみろ。何故彼女の予定を知っている。」
「いだだだ…当然見ていたからに決まってい…ぶべらっ!!!」
勢い良く背負い投げされた東城さんを呆然と見つめる。九兵衛さん凄いなぁ。
「申し訳ない、奴が無礼を働いたようですね。」
「え?…あ、いえ。特には。」
うん、実際会ったのってお店に来たとき一回だけだしね。まさちゃんとは前から知り合いみたいだったけど、私は知り合い未満だ。
「僕は柳生九兵衛といいます。」
「あ、吉田ユキです。」
「吉田さんはもしかして甘味処で働いてるのですか?」
「あ、はい。向こうのほうにある処で。」
指を指しながら言うと九兵衛さんは顎に手を添えて考える素振りをした。
「もしや彼処か…」
「え?」
「あぁ、申し訳ない。妙ちゃん…友達が絶賛していた店ではないかと思いまして。今度是非立ち寄らせて貰います。」
「あ、はい。お待ちしてます。」
「その時は勿論私もご一緒させて頂きま…ぐぼっ!!」
あ。今度は東城さんにキレイに踵落としが決まった。地面に顔がめり込んでいて、おぉと小さく声を漏らした。もしかしてこの世界の地面はウエハースか何かで出来ているんじゃないだろうか。お妙さんをはじめとした女性陣はパワフルだなぁ。
「では僕らはこれで。」
「さようなら。」
九兵衛さんが片手で東城さんの着物の襟を掴んで小さく頭を下げたので、私も慌てて頭を下げる。そのまま彼女はズルズルと東城さんを引きずりながら歩いていった。
「若!私は用事が出来たので引きずるのを止めて貰えませんかぁ!」
「…一応聞くが、その用事とはなんだ。」
「当然ユキ殿の身辺警護を…いだだだ!若ぁ!?いだだだだ!」
小さくなっていく背中を眺めていたが、彼女等がそのような話をしていたことは知らない。ただ、東城さんがいだだだ!と叫んでいるのだけは聞こえていた。