参拾捌

この間電信柱の後ろに東城さんを見かけました。まさちゃんがそれを発見してプロレス技を仕掛けてました。凄い悲鳴だったけれど大丈夫ですかね?






『蕎麦の饅頭を10個下さい。』

白い巨大につぶらな瞳、黄色い嘴を持ったその生き物(生き物?)がプラカードをペラリと出しながら立っていた。エ…エリザベスきたァァァ!!
え、えーと何々?蕎麦饅頭を10個?

「はい、少々お待ち下さい。」

今日はまだ蕎麦饅頭が出来あがってないんだよね。大将に確認すると、あと5分程で蒸しあがるそう。

「申し訳ございません、蒸しあがるのにあと5分程かかるのですが…」

つぶらな瞳を見つめて言う。けれどその表情は変わらない。…怒ってる?これ怒ってるの?
動きを止めて内心オロオロしていると、次のプラカードをひょっこりと出してきた。

『待ってます。』
「…ありがとうございます。では此方でお待ち下さい。」

近場の椅子を勧めて頭を小さく下げる。お茶をいれようと湯飲みを用意しながら様子を窺っていると、エリーはヒョコヒョコと移動してちょこんと椅子に腰掛けた。…なんか可愛く見えてくるから不思議だ。

お茶を盆に乗せてエリーに持っていくと、エリーは表情そのままにつぶらな瞳で私を見てくる。…怒ってる?これ怒ってるの?
あ、ぺこりと小さく頭を下げてくれた。どうやら怒ってはいないらしい。
こちらも頭を下げてその場を去り、布巾を持って店内の机を拭きながら彼(彼女?)の後ろ姿を窺う。
…あ、湯飲みに手を伸ばした!持った!持った持った!どうやって掴んでるんだろう。それを口元に運んだようで、頭が若干上を向いた。飲んだ!凄い、どうやって飲んだんだろう。

「ユキー、出来たぜ。」
「はーい!」

大将に呼ばれたので、エリザベスから視線を外し、出来立てホカホカの蕎麦饅頭をパックに詰める。蒸れちゃうので蓋はせずに、と。
よし、と顔をあげれば椅子に座ったままのエリザベスが此方を凝視している。
み、見られてる!?さっきは可愛く見えたのに今は少し怖い。というか気まずい。一方的にだけど。

「お待たせしました。お会計1500円になります。」

エリザベスは白い手(羽?ヒレ?)を差し出し、コイントレーに1500円丁度を置いた。どうやって掴んでたんだろう…?

「熱いのでお気をつけ下さい。ありがとうございました。」

ビニール袋を差し出すと、白い手(羽?ヒレ?)を再びあげてガサリと袋の持ち手を掴んだ。そのままくるりと踵を返して、エリザベスは去っていった。
なんだか不思議な着ぐる…生き物だったな。