参拾玖

こんにちはユキです。結野アナのお天気占いを見たら、暫く雨が続くそうです。我が家にある傘はコンビニで買ったビニール傘なので、晴れてるうちに折角だから可愛い物を買いに行こうと思います。



呉服店や小物屋を見つつ傘の専門店を目指す。天人が来て江戸は発展したとは言っても、昔ながらの店というものは未だに多く残っている。折角着物を着ているのだから値段は張るだろうが、ビニール傘ではなく和傘を手に入れたいと思ったのだ。
店に着いて商品を幾つか眺めれば、無地だけでなく柄物もあるようだ。蛇の目や小花のあしらったもの、兎など様々だ。和傘なんて機会がなかったから感動していると、後ろから声を掛けられた。

「おー、ユキじゃねぇか。」
「え?」

聞き覚えのある声に振り返ると、銀さんが居て小さく頭を下げる。ふと視線を横にずらすと、その隣に美少女を発見した。
緑色の綺麗な髪に丈の短い着物。すらりとして姿勢の良い様はお淑やかさを感じさせる。たまさんだ!か、可愛いぃぃ!
そんな視線に気が付いたのかは分からないが、たまさんはジーッと私を見ている。なんかスキャンされてそう。

「はじめまして。たまです。」
「は、はじめまして。ユキです。」

無表情ながらもきっちり挨拶をくれたたまさんに、慌てて挨拶を返す。いや、美少女だわホント。

「ユキ様ですね、よろしくお願いします。」
「あー、コイツ絡繰りなんだ。融通効かねえとこもあるだろうけど、まぁ仲良くしてやってくれや。」
「は、はい。」

絡繰り…これで絡繰りか。凄い技術だなぁ。二足歩行のロボットとか人類の夢みたいに言われてたのに。もう人と変わりないよね。

「こんな所で何してたんだ?買い物か?」
「あ、はい。暫く雨が降るって天気予報で言っていたので傘を新調しようと思って。」
「あぁ、そういえば今朝結野アナが言ってたな。傘なんてあんま頓着したことねぇけど。」

意外と種類あるんだな、なんて言いながら傘を眺める銀さんを眺める。まぁ男の人はそうだよね。でも女の子って皆違う色の傘を持ってるよね。縁にレースが着いてたり、花柄だったり種類は様々で。雨の日ってどうしても気分が落ち込みがちだけど、お気に入りの色の傘ってだけで気分が向上したりするし、やっぱりビニール傘じゃないものを一本は持ってたいんだよね。

たまさんを見ると、髪には簪の代わりにネジが一本刺さっている。あぁこれが銀さんからのプレゼントか。自分が刺すとあれだろうけど、たまさんみたいな美少女だと似合う。

「素敵なネジですね。」
「これは先程銀時様な買って頂いたんです。」
「へぇ、よくお似合いです。」
「ありがとうございます。」
「お、これなんていいんじゃねぇの。」

銀さんが手に取ったのは白地にオレンジ色と黄色と青色の可愛い梅の花が全面に広がった模様の物。

「全長74センチ、直径は105センチ、骨数46本です。」
「可愛いですね…。」

うーんと悩みながら銀さんの手元の傘を見つめる。それいいなぁ…。すると、銀さんが傘をもったまま店主に声をかけた。

「おや銀さんじゃないか。」
「おー、コイツ俺の知り合いなんだわ。これ欲しがってんだけど安くしてくんね?」
「えっ…」

図々しくも値切り始めた銀さんを思わず見つめる。いくら知り合いだからってそんな簡単に安くなるものなの?値切るという行為を殆どしたことがないから分からないが、原価があって売値があって利益が…って考えるとそんな簡単に出来る事じゃないよね。

「へぇ、そういうことなら任せてくれや。で?どっちのお嬢さんが本命なんだ?」
「うっせぇよジジィ!!そんなんじゃねぇよ!!」
「本命?この傘を欲しているのはユキ様ですが。銀時様、本命とはどういう意味ですか?」
「あーもう!ジジィさっさと売りやがれ!!」

にやにやしながらピッと小指を立てた店主と、純粋な目で見てくるたまさんに居たたまれなくなった銀さんは、大きな声を出して唸っていた。それを私は助けることも無く、苦笑しながら見ていた訳だが。
お金を払って軽く包んでもらう。待っている間に銀さんが傘を指差して尋ねてきた。

「あれでよかったんだろ?」
「え?」
「だからあれ、気に入ったんだろ?」
「あ、はい。」
「良かったな安くなって。」
「はい。でも本当に良かったんでしょうか。」
「いーんだよ。此処のジジィから何度か依頼請けてて結構古い知り合いなんだ。好意には甘えとけって。」
「…えぇと」
「正確にいえば60%OFFです。原価を計算すると…」
「おめーは黙ってろォォォ!!」

たまさんの言う原価が気になった。それにしても、知り合いだからってこの値引き凄くない?銀さんが居なければ定価だったわけだからね。三食豆パンを食べるような人は値切り方も知ってるという事か。

「お前失礼なこと考えてんだろ。」
「いやまさか。」

何故バレた。
はぁ、と溜め息を吐いた銀さんに愛想笑いを返してぺこりと頭を小さく下げた。

「ありがとうございます。」
「…おー。」

少しふてくされた様子で頭を掻く銀さんを、たまさんが不思議そうに見つめていた。