文通相手とデート

「アナタがウララさん?はじめまして。僕が志村新八でーす。」

昼間に可愛い女の子と待ち合わせをしていたらしい総悟くんを発見。ピンクのツインテールの彼女はどことなく見たことのある姿で。
草陰に銀さんと新八くん、もう1人女の子を見かけた。あー、見たことある。なんだっけ、このあと総悟くんデートだっけ?どんなデートかは忘れたけれど、お似合いだなぁ。と思いながらスルーすることにした。

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日が沈み、星が輝き始めた頃。私はビル街を歩いていた。
するととあるビルの下で人が集まっているのを発見した。真選組も来ているみたいなので何か事件があったらしい。気になったので近くのおじさんに聞いてみることにした。

「何かあったんですか?」
「あぁ、凄かったよ!飛び降り自殺だったみたいなんだけどね、」
「え、」

皆笑顔だったから何かと思ったら予想外に重たい内容で、たじろいだ。あれ、もしかしてお姉さんのやつか。

「大丈夫大丈夫!未遂で終わったから!」
「あ、そうですか。良かった。」
「そう、それが凄かったんだよ!女が飛び降りたって思ったら、すぐに男も飛び降りてきてさ。男が女の手を掴んで、ぶつかる前に助けたんだよ!なんか紐みたいのにぶら下がっていたみたいでさ!」
「へぇー。」

凄いなぁー、確か銀さんだよね。
ふと周りを見ると人がまばらになっていて、話をしてくれたおじさんもそろそろ帰るわ!と言って帰って行った。私も帰ろうと体の向きを変えたとき、可愛らしい声が聞こえた。

「ご主人様っ!!此方からどうぞっ!」

ご…ご主人様ァァァアア!?思わず振り返って声の元を探した。

「隊長ォォオ!!誰ですかこの女の子はァァア!一体どんな関係なんブヘッ!!」
「あー?うるせぇな、俺はもう眠いんでさァ。さっさとパトカーに乗っ……」
「ご主人様、飲み物は如何ですか?何か買ってきましょうか?」
「…」
「ご主人様?」
「……!!!」

目があった。結構距離があったのに向こうは気付いたらしい。視力良いね。
てか女の子と隊員の人の声は叫んでいたから聞こえたけど、総悟くんの声は聞こえなかった。お?なんかコッチ来たぞ?

「ユキさん!?お、お久しぶりでさァ!」
「はい、そうですね。」
「お、送りやす…!」
「え、お仕事中じゃ…」
「もう屯所に帰るだけなんで大丈夫でさァ。ちょっとだけ待ってて貰えやすかィ?」
あ…。返事する前に行っちゃった。手持ち無沙汰なのでビルを見上げてみる。

「おい田中」
「隊長ォォオ!俺、田辺っす!!」
「静かにしねーか!テメーはこの女連れて先に帰ってろ、いいな?」
「隊長はどうするんすかァァア!?」
「ウルセェっつてんだろぉがァァアア!!あ、やべ。あとは土方にやらせとけ、いいな。
「ご主人様お供します!」
「その呼び方やめなせェ!!絶対ェ着いて来んな。いいな。」
「あ、隊長ォォオオオ!?」

ん?なんか凄い揉めてる?も、申し訳無いんだけど!それにしてもあの隊員の人元気だなぁ。

「すいやせん、お待たせしやした。」
「いえ、なんか無理させちゃったみたいで…。」
「お、俺が勝手にした事でさァ!俺こそ我が儘言って…。あ、荷物持ちやす。」
「あ。ありがとうございます。…やっぱり夜道って不安だから、頼もしいです。」
「…っっっ!!い、行きましょう!」

ささっと先へ行ってしまった総悟くん。でもすぐにスピードを落としてくれるのが可愛いくて、少し笑って後を追いかける。それにしても優しいなぁ。

「今日昼前にもお見かけしたんですよ。」
「え、こ、声掛けてくれれば良かったのに…」
「そんな野暮な事しませんよ。だってデートだったんですよね?」
「え。」
「可愛い彼女さんですね。」

本当に可愛い子だった。今時の短い丈の着物も似合っていたし。美男美少女でお似合いだったなぁ。

「そういえばさっきも一緒でしたよね。あ、す、すいません!邪魔しちゃって…」
「そ、そんなんじゃありやせん!」
「え?」
「デ、デートとか、彼女とか、そんなんじゃありやせん。」
「え、あ、そうですか?そういえばさっきご主人様って…」
「!!いや、あの、アレですぜィ!なんかメイド喫茶に憧れてるとかで、真似してたらしいんでさァ。」

あー、若い子ってヒラヒラのメイド服とか憧れるときあるもんね。それにしてもお似合いだと思ったんだけどな。

「万事屋のとこのメガ…新八くんの頼みでしてねィ。文通相手に俺の写真を送ってしまったらしくて。会う約束をしたのはいいものの、後には引けないってんで、新八くんの代わりに会うことになったんでさァ。」
「文通…」

そういえばそんな理由だったかも。

「近藤さんは新八くんのお姉さんが好きなんです。だから新八くんのことも弟のように可愛いがってて…」

お妙さんのことですね。てか弟って気が早いなぁ。

「俺も…、勝手ですけど、弟みたいに思っているんです。弟の頼みならってんで少し張り切ってしまったんでさァ。」

や…優しいィィィィ!!!弟とか…そんな風に思ってたんだね!
確かに真選組じゃ年上が多いから、末っ子っぽいもんね。年下の男の子って新鮮なのかもしれない。

「でも少し…張り切り過ぎたみたいですねィ。彼女とかに見えたっていうなら、新八くんに悪いことしちまった…。」
「え?」
「あの子のこと…写真見て、一目惚れしてたみたいですから…」

言葉で表すならしゅん、て感じだ。お、落ち込まないでぇぇぇ。

「大丈夫です。新八くんにはキチンと伝わっていますよ。」
「…ユキさんにそう言って貰えると心強いです。」

へにゃりと笑う総悟くん。かーわーいーいー。いやマジで。優しいし可愛いしホント無敵だな!!

「…そういえばさっきの事件、凄かったって聞きました。飛び降りたのを助けたって。」
「あぁ、旦那ですねィ。」
「坂田さんかぁ。格好良かったんでしょうねぇ。」
「え。」
「話してくれた方が、それは凄かったって絶賛してて。」
「まぁ…(旦那ァ、夜道は後ろに注意ですぜィ。)」

ふと気付けばすでに家に着いていて、いつもよりも早く着いた気がした。

「もう着いちゃいましたね。」
「あ、あぁ本当ですねィ。な、なんかユキさんといると時間が早く感じやす。」
「あ、私も今そう思っていたんです。」
「!!」
「沖田さん話し上手聞き上手だから、楽しくて。」
「ー!!あ、う、」
「?」
「あ、あのっ…!お、俺もっ…」

下向いて隊服の裾をギュッて握ってる。車の灯りで一瞬照らされた耳は、ほんのりと赤く染まって見えた。…可愛い。

「俺も、ユキさんと話すの楽しいです…!」

バッとお辞儀をしてから踵を返して走って行ってしまった。突然のことに呆気に取られていたら、遠くで総悟くんが振り返った。

「っ、また近いうち、お店行きやす…!!」
「はい、待ってます。今日はわざわざ有り難うございました。」

少し声を張り上げて言うと、総悟くんは満面の笑みで手を降ってくれた。私も小さく振り返してから家の扉を開けた。
これはアレだな。キュンてやつだ。