雨のち晴

2月6日。1年で1日しかない今日という日。俺にとっては大切な日、なんだけど…。

「はあ。」

今日は朝からついていない。朝一で沖田隊長のバズーカに当たるし、朝飯には苦手なものがあるし。納豆は頭にひっくり返されるし、マヨネーズの買い出しには現在進行形で行かされるし。

「はぁ。」

とめどなく漏れる溜め息を止める術を持たぬまま、黙々とマヨネーズをカゴに入れる。ずっしりと重くなったカゴに少し眉間に皺を寄せて。
レジに並んでふと隣を見るとそこには見知った顔。名前は確か吉田ユキさんだ。なんで名前を知ってるかといえば、張り込みで使う候補だった空き部屋にいつの間にか引っ越していたからだ。だからアレです。不可抗力って奴。誰でも調べてるわけじゃないから。

「こんにちは。」
「……こんにちは。」

顔見知り程度にはなったと思っているので、挨拶をすると、彼女はん?と一瞬考えてゆっくりと首を回す。目が合って暫く考えた顔をした後に合点したのか、挨拶を返してくれた。
…そんなに俺って覚えにくい?いや、密偵としては良いことだけどさ。

「今日も凄い量ですね。」
「あ、ははは。上司に極度のマヨラーが居るんですよ。もうアレは病気ですね。」
「はは。」

普通の女の人とこうして世間話(?)なんて普段しないから新鮮だ。万事屋の所のチャイナさんや姐御のような言葉よりもまず手が出てくるような人しか周りに居ないからね。うん、新鮮。

「そうだ、聞いて下さいよ。俺、今日は朝から散々で。」
「あー、そういう日って何をやってもダメなんですよね。」
「そうなんですよ、不運が続いてしまって。今日は俺の誕生日なのに…。」
「え?」

話も中途半端に、俺の方の列が進んで会計が始まる。店員の人の引いた視線も既に慣れっこだ。…慣れたくなかった。
代金を払って袋に詰めていると、間を少し開けて隣に吉田さんがやってきた。お互い黙々とカゴの中身を袋に詰めていると、吉田さんがポツリと話し始めた。

「山崎さん今日はお仕事何時までですか?」
「へ?」
「あ、いえ、あの。よかったらケーキ食べに行きません?近所の喫茶店なんですけど。」
「い、行きたいです!是非!」
「ホントですか?良かった。」
「荷物置いたら終わりなんで、すぐ置いてきます!」
「そんな急がなくても。30分後にそこのコンビニでどうですか?」
「はい!」

この後行った喫茶店はお洒落で場違いな雰囲気に気圧されながらも、出てきたケーキに吉田さんが用意しておいてくれたらしいケーキと数本の蝋燭。柄にもなく涙腺がゆるんで。

「誕生日おめでとうございます。」

散々な1日だと思っていたけど、吉田さんのお陰で気分は浮上。涙を飲み込んでフーッと蝋燭の火を吹き消した。





ザキさん遅れてゴメンね。ハピバ!