贅沢な一時@
今日は7月8日。近藤さんの計らいで1日休みを貰った俺は、ウキウキしながら団子屋へと向かっていた。あわよくば彼女からお祝いの言葉が貰えたら、なんて思ったりして。
「あ、沖田さん。」
「!!」
団子屋に着く前に聞き慣れた声が聞こえ、肩がはねる。心臓はうるさく鳴り始め、顔に熱が溜まり始める。いつまで経っても俺の精神はユキさんに慣れてくれない。
「こんにちは。」
「こ、こここんにちはっ!」
俺のダッセェ態度も笑顔で対応してくれる大人な人。そんな彼女から衝撃的な言葉が飛び出すなんて俺は思ってもいなかった。
「あの、」
「?はい。」
珍しく言い淀んだユキさんに首を傾げる。なんでィ?俺、何かやらかしちまったっけ?
「沖田さん」
「は、はい!」
「お誕生日、おめでとうございます」
え。ユキさんが、俺に、誕生日おめでとうって…
「!!!」
カアッと体温があがる。ドクドクと心臓は暴れ、熱い。こんなにも簡単に彼女は俺を喜ばせる。
「う、あ…」
「プレゼント…用意しようと思ったんですけど、何がいいか分からなくて…」
言葉が貰えただけでも悶えたいくらい嬉しいのに、更にプレゼントの事まで考えてくれていたなんて。口がにやけるのを隠すように片手で覆う。
「あ、次のお休みの日にでも何処か呑みに行きませんか?勿論、ご都合が宜しければですけど…」
「あ、あの、ユキさん!」
「はい。」
不意に思い浮かんだのは屯所での隊士の会話。彼女に手料理を作ってもらっただとか、手作りのお菓子を貰っただとか。まあ、その会話に近藤さんが加わって慰める会になっちまったわけだけど。
駄目もとで言ってみるかと意気込んだものの、緊張と恥ずかしさで胸が一杯になって、なかなか言葉が出てこない。
「あの…その…」
「?」
それでも文句も言わず待っていてくれる彼女に、俺も心を決めてお願いを口にした。
「ユキさんの手料理!食べてみたいなーなんて…」
チラリと視線を上げる。少しでも嫌な顔をしてたら、と不安に駆られたがそれは杞憂に終わる。ユキさんはキョトンとして首を傾げた。
「え、いいですけど…そんなのでいいんですか?」
「は、はい!」
俺にとってはそんなのじゃありやせん!と意気込むと、ユキさんはくすりと笑った。
「ふふ、分かりました。あまり大した物は作れないですけど、腕によりをかけて作りますね。」
「あ、ありがとうございやす!!」
快く俺の我が儘を聞いてくれたユキさんに
「いつにしますか?」
「…今夜はきっと屯所で俺の誕生祝いという名の呑み会なんでさァ。」
「それは素敵ですね。」
「彼奴等は呑みたいだけですぜィ。」
「まさか。そんな事ありませんよ。」
いや、彼奴等は絶対ェ酒がメインてすぜィ。あー、でも近藤さんは嬉しそうな顔しながら乾杯の挨拶すんだろうな。
だからスイヤセン、と断る前にユキさんは体の前で拳を作って力強い瞳で言った。
「私も今夜じゃ簡単な物しか作れないので、また後日だと有り難いです。」
そんな、俺はユキさんの作るもんなら何でもいいんですけどねィ。けれど、なんだか意気込んでいるユキさんに口出しなんて出来るわけもなく。
「ありがとうございやす。」
偶に見せる子供っぽいところに俺はホッと息を吐くのだ。だって俺は彼女にとって年下の餓鬼だから。
「じゃあまた後日。それまでに色々な料理研究しておきますね。」
「はい。楽しみにしてやす。」
その後日がスゲェ待ち遠しい。けれどまぁまずは今夜の呑み会、ユキさんが眩しそうに目を細めて素敵だと言ってくれた野郎共の集まりに顔を出す事にするか。ほんの少し照れくさくて、暖かいと感じる場所。
ソワソワしていた近藤さんや部下を思い出して口元に笑みを浮かべた。
…あれ、ユキさん何処で作ってくれるつもりなんですかねィ。