夜空の大輪
※IF設定注意。鬼兵隊幹部全員と顔見知り以上です。
「おやユキではないか。丁度良かった。これから主の所に行こうと思っていたでござるよ。」
「…万斉さん?」
仕事の帰り道。コンビニから出た所で声をかけられ足を止めた。顔をあげれば其処には万斉さんがいて、小さく頭を下げた。万斉さんは一つ頷くと話し始めた。
「ユキは知らぬだろうと思ってな。」
「?何をですか?」
「もうすぐ晋助の誕生日なのでござる。」
…へえ。高杉さんって誕生日あるんだ…。いや、そりゃあるだろうけどなんかイメージ湧かない。
ぽかんと口を開けたままの私をそのままに、万斉さんは口元を緩ませた。
「一つ、頼まれてくれぬか?」
「…はい?」
────
8月10日。
「よぉ、準備はいいか。」
「はい。」
昨日の夜ふらりとやってきた高杉さんが用意してくれた浴衣。白地に黄色の鉄線模様、所々に紫がかった青色が散りばめられた其れに、青の帯をリボンの形に結ぶ。普段着ないような色合いの浴衣に微笑めば、いつもの着物ではなく黒を基調とした浴衣に薄い青色の帯を絞めた高杉さんはふっと目を細めて綺麗な笑みを浮かべた。
「悪くねェ。」
その台詞に顔に熱が溜まるのが分かって、思わず視線を反らしながら御礼を言うと高杉さんは可笑しそうに笑った。
江戸から少し離れた場所にある大きな河川。今日は其処の一角で行われる花火大会。
空には暗闇が広がり始め、人が徐々に集まり始めていた。
「わあ、凄い人ですね。」
「あァ。」
仕掛け花火が毎年の名物らしく、そのすぐ近くの土手には多くの人が集まっていた。私はキョロキョロと周りを見渡しながら高杉さんの後ろをついていくと、高杉さんがピタリと歩みを止めた。
「あ?なんでてめー等が居やがる。」
「おや晋助。遅かったでござるな。」
其処に居たのは鬼兵隊の幹部の面々で。
「あっユキ!此処まで晋助様を連れて来るなんてやるっスね!」
「遅かったですねぇユキさん。迷ってしまわれたのかと心配してたんですよ。」
万斉さん達も普段の恰好ではなく、周りに馴染んだ浴衣姿。万斉さんはサングラスしてるけど普通にイケメンだし、また子ちゃんは美人。そして隣には色気満載の高杉さん。あれ、私場違いじゃないですか?
「ユキさんかき氷買ってきましょう。何味が良いですか?」
武市さァァァん!!この面子で一番落ち着くのが武市さんってどうなんだろう…。
「ふむ。ユキに連れて来るよう頼んだが、無用だったようでござるな。」
「チッ」
そう、実はこの間万斉さんに会った時に高杉さんをこの祭りに誘って連れてくるように言われていたのだ。けれど高杉さんから誘って貰えたので、私は特別なことはしていないのが現状だったりする。
「ユキさんどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
「零さないように気をつけて下さいね。」
お母さん?
武市さんが買ってきてくれたかき氷にストローを刺してサクサクと混ぜる。一口口に含めば広がる甘さと冷たさ。
ふと視線を感じて顔をあげると、高杉さんが此方をガン見していた。思わず動きを止めて見つめ返すと、高杉さんはニヤリと笑って近付いてきた。
「?あ、食べます?」
「あァ。」
器ごと渡そうとすると顔が近付いてきたので、一口分を掬って口へと運ぶと戸惑いなく食べてくれた。その瞬間また子ちゃんがあー!!と叫び、武市さんはおや、と感心、万斉さんはふっと笑った。
「美味しいですよね。お祭りって感じで。」
「そうだなァ。」
そう言って笑う高杉さんは楽しそうで。私も釣られて微笑むと、次の瞬間ドンッと心臓まで響く音が辺りに響き渡った。
「始まったようですね。」
空に咲く大輪の華。単色に始まり、色とりどりの華が咲き乱れる。
皆が言葉を忘れ、一心に空を見上げる。ふと高杉さんの顔を窺えば、眩しそうに花火を見上げていた。その表情は此処ではなく、何処か遠くを見ているみたいで。
ほんの数十分の間に上がった大量の花火。それも徐々に終わりへと近付いていた。
「遂に次っスね万斉先輩!」
「準備は万端。抜かりはありませんよ。」
「…あれを本当にやったでござるか。」
「当然っス!!晋助様もきっと気に入ってくれる筈っスよ!」
少し離れた場所で意気込んでいるまた子ちゃん達を呆れた表情で見つめる高杉さんにくすりと笑う。
空に花火が上がると共に河川の仕掛け花火の周りの花火に火がつく。徐々に火がついていき、仕掛け花火全体に広がった。
『祝誕生』
余談だが、毎年仕掛け花火の文字は変わるそうで。ある年は会社の広告、ある年は愛の告白。イラストだったり文字だったり様々で、今年はあの文字が採用されたようだ。
それにしてもあれは…
「出産祝いみたいですね…」
「「…あ。」」
「はあ…。」
ポツリと呟いた言葉はまた子ちゃんと武市さんの動きを止めるには十二分だったようで、万斉さんも額に手を当て溜め息を吐いた。
「ククッ、台無しじゃねェか。」
そう笑った高杉さんはもう遠くなんて見ていなかった。それに何となくホッとして、私も吹き出して笑った。
高杉さんハピバ!