君達と過ごす

ふと店に貼ってあったカレンダーを見て思い出した。今日は10月10日…銀さんの誕生日じゃね?
そうか、だから最近銀さんは店に来る度に(ほぼ毎日だけど)チラチラチラチラこっちを見てきたわけだ。何か言いたいことがあるんだろうなーとは思って聞いたけれど、何でもないって誤魔化されてたし。そりゃあ去年一応誕生日教わったわけだし、もう一度言うのって向こうも気まずいもんね。
銀さんが帰ってからまさちゃんに聞いても楽しそうな顔して教えてくれなかったんだよね。

さて、それにしてもどうしようかな…。今の今気がついたんだから、当然プレゼントなんて用意してないし、去年みたいにお店だって予約してない。最近人気出てきたみたいで、予約しないと並ぶかもしれないし…。約束もしてないから、今日は無理だよね。

「よ、よお!」

噂をすれば、という感じでお店に片手をあげてやってきた銀さん。私は今の今アナタの誕生日に気がついたので、とても気まずい気がする。
プレゼントお団子じゃ駄目かな…駄目だよな。取り敢えず食事は後日、ということにして今日は言葉だけで許してもらおう。

「いらっしゃいませ。」
「お、おー。あの、さ…今日が何の日か知ってるか?」

後頭部を掻きながら少し気まずそうに言葉を紡いだ銀さん。そりゃ気まずいよね。いや、私に非があるんだけど。

「はい、坂田さんの誕生日ですよね?おめでとうございます。」

にこりと微笑んでなんて事ないように言う。此処で素直に忘れてました、なんて言ったら駄目だと思う。嘘も方便だよね、なんて自分を正当化してみた。

「な、なぁんだ知ってたのかよ!あー、その、ありがとな。」
「いえ…」

忘れてましたスミマセン。へらっと笑みを浮かべた銀さんに、若干の気まずさが復活する。

「あ、の…スミマセン、今日お店の予約出来なくて、後日で悪いんですけど…」
「あー、その事なんだけどよ。お前今日仕事終わってから空いてるか?」
「え?あ、はい。」
「じゃあ、さ…」







「家で飯作ってくんねえ?」




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 銀時Side

家に神楽も新八居る今日、家にユキを呼んだのは他でもねぇ。あいつ等に紹介するため…ではなくあいつ等を紹介するためだったりする。べ、別に深い意味なんて無えよ?ほら、俺万事屋だし、何かあったとき力になれるだろ?ウチのガキ共が懐いて絆されてくれたら尚良いなぁ、なんて思ってねえよ?

いつものようにソファで寝転がるのではなく、座ってジャンプを眺める。事実眺めるだけだ。文字なんか頭に入って来ねえんだけど。
仕事が終わった頃に新八と神楽がユキを迎えに行った。お前ら初対面なんだから俺も行くと言ったのだが、夕飯の買い物をするのだから、誕生会の主役が来てどうするんだと宥められてしまった。
買い物袋を持って帰ってきた奴らは随分と慣れたようで懐いているし、ユキも楽しそうだ。その証拠に今現在、三人は台所な籠もって夕飯の支度をしているのだ。
ちょ、なんか寂しいだろォォォ!!主役放って何楽しそうにしてんだよォォォ!!
定春が気を利かせてなのか、俺をちらりと見てから先週号のジャンプをくわえて渡してくる。なんだその肩に置いた手は。なんだその目はァァァ!!

「少し遠いんですけど、会員制の大型スーパーマーケットが出来たの知ってますか?」
「テレビでやってたやつアルか?業務用スーパーだから量が多くて安いって言ってたネ!」
「へえ、知らなかった。二人とも物知りだね!」
「「へへ…」」

聞こえてくる声に耳をすませば、仲良く話した上に照れたように笑った新八と神楽の声が聞こえてきた。おいィィィ!!お前らそんなキャラじゃねえだろォォォ!!

「神楽ちゃん、これでゆっくりとひっくり返して…」
「こうアルか?」
「うん上手。次は大根おろしお願いしてもいい?」
「任せるネ!」
「ユキさん、味付けコレでどうですか?」
「ん…美味しい、新八くんお料理上手なんだね。」
「そ、そんなこと無いですよ。」

…なんか涙出てきた。パチンコでも行ってこようかな。いやでも、俺から誘っておいてユキを放って出掛けるのもなぁ。俺の為にああやって作ってくれてるわけだし。

はぁと溜め息を吐いてジャンプを机の上に置き、頬杖をつく。台所から聞こえてくる笑い声にユキと一緒になったらこんな感じかな、なんてぼんやりと考える。

仕事から帰っても部屋には電気が点いていて、玄関の扉を開ければふんわりと夕飯の匂いがして。パタパタと笑顔で出迎えてくれるアイツに神楽が飛びついて、新八が駆け寄って。ガキ共が手を洗いに行った後にそれを見送るアイツを腕の中に閉じ込めれば、ふわっと香る俺と同じシャンプーの匂い。皆で飯食って、テレビ見て、偶に出掛けて。
少し前には自分一人だったこの空間に、いつの間にか新八が居て、神楽が居て。それが当たり前になってきて、それが心地良くなっていることも理解している。だけど人間っつうのは厄介なもんで、もう少しと欲が出てくる生き物だ。
だから、もう少しだけ欲を言うなら新八と神楽そして俺自身に、早く絆されてくれねえかな、なんて。

「銀ちゃーん!出来たアル!!」
「あ、待ってよ神楽ちゃん。今ジャンプ片付けるから!ほら銀さん、手洗ってきて下さいよ!」
「…はいはい。」

重い腰をあげて手を洗いに行く。部屋に戻れば綺麗に盛り付けられた色々な種類の料理が机に並べられていて。

「坂田さんお待たせしてすみません。」
「…いや、ありがとな。」

ところどころ不揃いな野菜や焦げた部分は神楽か(新八は一応料理出来るし)、なんてクスリと笑う。

「銀ちゃん早くするアル!」

クラッカーを構えた神楽と新八に面倒そうにみせる返事をすれば、照れ隠しと気付いているのかいないのか二人はニッコリと笑う。席について酒ではなくジュースの入ったグラスを構えれば、目の前に座ったユキとパチリと目が合った。

「それじゃあ銀さんの誕生日を祝って乾杯といきましょうか。」
「乾杯アルー!!」

カチリと鳴ったグラス。半分ほど飲んでグラスを置けば、パァン!と大きな音を立てて真横でクラッカーが鳴り、続いて正面でも鳴る。

「おめでとうございます銀さん。」
「おめでとうアル!」

拍手と共に口々に祝われ、気恥ずかしさに視線を外して後頭部を掻く。外した先でユキと再び目が合えば、彼女はニッコリと笑って口を開いた。

「おめでとうございます。」

こういうのが幸せっつうのかな、なんて

「…おー、ありがとな。」

柄にもない事を考えた自分に内心笑って、湯気の立つ美味そうな飯に視線を落とした。