気分が大事
クリスマスイブの前日。無性にショートケーキが食べたくなってケーキ屋に向かった私。
おひとつで宜しいですかー?と無駄にキラキラした笑みを浮かべる店員をやり過ごし、漸くトナカイのチョコの乗ったケーキを手に入れた訳だが。
「…」
「…ぐすっ」
振り返ると其処には涙を浮かべた(見えないけど)全蔵さん。
…大きなお世話だァァァ!!クリスマス当日やイブやイブイブに皆予定があると思うなよ!彼氏は兎も角女友達くらいなぁ私だって、私だって…ぐすん。
「いいよもう…何も言うな。」
「…」
「ほら、KENTAのフライドチキンも買ったし、シャンパンも用意した。今日はとことん呑もうぜ?」
そう言って差し出すように見せてきたのは白髪髭のお爺さんが目印の赤い箱だった。袋を覗けば油ものの食欲をそそる良い香り。
全蔵さんはそんな私を放っておいて、ケーキをもう一つ追加で買っていた。あ、全蔵さんも食べるんだ。
「んじゃ行こうぜ。」
「あ、はい。」
べ、別にKENTAにつられたわけじゃないから。KENTAって結構高いから、なんて考えてないからァァァ!!
そんなこんなでやってきました全蔵さんの自宅。…めちゃくちゃでっかい屋敷ですね!部屋に入ると畳敷きの部屋で、さり気なく置いてある壺やら掛け軸やらがとても高級そうだ。
ツリーなどのクリスマスの装飾は一切無い。その思考を読みとったのか、全蔵さんが袋から酒やフライドチキンをテーブルに並べながら言った。
「一人暮らしの男の家がそんなんだったら気持ち悪いだろ。」
…一人暮らしの女子の家はセーフですか?いやだって可愛いクリスマスの小物とかあると欲しくなっちゃうんだよね。まぁ誰に見せる訳でも無いですけど。
「ほらよグラス。」
「あ、ありがとうございます。」
コポコポと注がれるシャンパン。グラスが徐々に色づいてきて、炭酸の泡が一つ二つと空気へと溶けていく。
「そんじゃ、乾杯と行こうぜ。」
「はい。」
カチンとグラスを鳴らし、お互いにグラスに口をつける。クリスマスらしさなんて殆ど無いけれど、こういうのも有りかななんて。なんとなく笑いがこみ上げてきて口元に笑みを浮かべると、全蔵さんが不思議そうにしながら料理を取り分けてくれた。