与えたいのは

5月に入り衣替えを済ませたものの、未だ羽織りを片付けれない今日この頃。例の如く定食屋で出会った土方さんが戸惑いながら言った。

「あ、あー、あのよ、明日…なんだけどよ。」
「明日?」

明日?明日…?

「一日休みとらされたんだよ。夜は屯所で宴会だっつーからアレなんだけどよ、それまで空いたっつーか…」

これはアレか?明日遊びに行こうぜってことか?
…待て待てなんだこんな突然。明日?明日ってなんかあったっけ。今日は5月の…4日でしょ、明日は5日。5月5日?こどもの日…他にも何かあったような…。

……あ、土方さんの誕生日か!




────

 土方side

「そうなんですか。ならお昼にお食事でもいかがですか?」

明日は俺の誕生日だ。近藤さんに休みにしてくれるよう頼もうと声を掛ければ、元々そのつもりだと豪快に笑われたのが先日の事だ。
何故元々そういったことに無頓着な俺が誕生日にわざわざ休みをとったかといえば、ユキの事を考えてだった。

コイツは、何処に行きたいとか一緒に過ごしたいとかいった、女には当たり前に備わっていそうな我が儘や欲求を行事の時だけでなく普段から口にする事はない。
誘えば楽しそうにするのだから行事が嫌い、ということは無いと思うのだが、俺の事を思ってか自分から誘うような事は無い。

それが去年の誕生日、初めてユキが俺と一緒に居たいという些細な我が儘が言ったのだ。ならば今年もその我が儘を通してやろうと、明日の予定を話した訳だが。
初めから俺の予定が空いているという考えは無かったのだろう。きっといつもと同じ感覚で、祝いの言葉だけ言って後日俺に予定に合わせるつもりだったんだろう彼女は戸惑った声をあげた。

「どこか行きたい所とか無えのか?」
「え、いえ、特には…。折角のお休みな上お誕生日なんですから、お好きなことされたほうがいいんじゃないですか?」
「好きなこと?」

俺の好きなこと。つーかやりたいこと。
…俺はコイツの我が儘を聞いてやりたい。
コイツは俺を休ませたい。ならば…。

「お前ん家でいいじゃねぇか。」
「は?」

そうだ、そうだよな。わざわざ出掛ける必要はねぇよな。ゆっくり過ごすなら自宅が一番だよな。
因みに屯所ではゆっくり過ごすなんて絶対ェ出来ねぇから却下だ。

「今日の夜から、と言いたいところだが今日中に済ませたい書類が幾つかあってな。悪いが行くのは明日になりそうだ。」
「え?」
「買い物とかもしとかなくていいぜ。明日一緒に行くからよ。」

ユキの家に朝起きたら向かい、昼前には近所のスーパーにでも一緒に行って食材とマヨを買う。ユキの作った昼飯を食いながら普段余りしないような他愛のない話をして。テレビを眺めながらのんびりと過ごすのも偶には悪くねぇ。

「そんじゃ明日な。」
「は…え?」

未だ夢心地なのか戸惑うユキの頭をくしゃりと撫で、軽く笑って定食屋をあとにした。