瞳の中に星を見た


「星空カフェ?」

梅雨もまだ明けぬ7月。大広間に集まって騒いでいた隊士達に声をかけると、そのうちの一人が雑誌を開いて見せてきた。
雑誌を受け取って写真を眺めるがいまいち興味が湧かないので率直に聞いてみる。

「なんでィそりゃぁ。」
「駅前にでかいビルが出来たじゃないっすか。そこにある展望カフェなんです。」
「で、その予約がとれなかったって話してたんすよー!あぁぁ折角彼女と行こうと思ってたのにぃぃぃ!!」

パタリと雑誌をたたんで腰掛ける。置いてあった煎餅に手を伸ばしながら叫んでいない奴に問い掛ける。

「星空っつーことは宇宙ってことか?」
「いえ、なんでもプラネタリウムらしいっすよ。」
「プラネタリウムも見れて食べ物もある、みたいな。」
「ほら、今度七夕あるじゃないですかー。」
「あぁ、そういうことですかィ。」

宇宙に気軽に行けるようになったこの御時世に、原始的にプラネタリウムとは。まぁ、原始的なのが良いのかもしれねぇけど。

「そりゃこんな直前にとれるわけ無ぇだろ!」
「局長が3ヶ月も前から予約したって自慢してたしなぁ。」
「くっそぉぉ、局長に譲って貰おうかなぁ…。」
「姐さん誘うって張り切ってたぞ。」
「「「無理だろ。」」」

七夕…七夕か。織姫やら彦星やらに興味は欠片も無いが、女っつーのはそういった行事が好きなもんだ。なら、ユキさんも興味があるんだろうか。

「近藤さん話がありやす!!」
「なんだ総悟、言ってみろ!」

興味があるかは分からないが、誘ってみるキッカケにはなるだろィ。

「スマイルで七夕フェアやるって小耳に挟みやして。」
「なにィィィイ!?」

クリスマス同様近藤さんから予約を騙しと…譲って貰った俺は甘味処へ。いや、七夕フェアは本当にやるらしいんで、嘘は吐いてやせんぜ。

「あああのユキさんっ!」
「あ、沖田さんいらっしゃいませ。」
「な………」
「な?」
「7日の夜って空いてますか…!!」

言った!言ったぜ俺ェェ!!ユキさんは少し驚いた顔をして、首を小さく傾げる。なんだソレ可愛…!!

「7日ですか?」
「は、はい!」
「はい、空いてます。」
「ホントですかィ!?ならあの、良かったら夕飯食べに行きやせんか?」
「はい、是非。」

微笑んだユキさんに心の中で大きくガッツポーズをした。




────

当日は生憎の雨。
織姫と彦星は今年は会えなかったって事ですねィ。
月の出ていない夜はどこか暗く感じ、傘をさす為に生じるユキさんとの距離も少し遠く感じる。いや、隣にユキさんが居るだけで幸せには違いないんですけどねィ。

「じ、実は今日行く店上司が予約してた店なんでさァ。でも用事で行けなくなったらしくて譲って貰ったんでさァ。」
「そうなんですか?誘ってくれてありがとうございます。」
「い、いえ!俺こそ来てくれて嬉しいです!ありがとうございやす!」

駅前ビルのエレベーターに乗り、上空を目指す。
つーか此処密室じゃねぇか。フワッと香るユキさんの香水に身を堅くしていると、ユキさんが外を見て言った。

「凄い高いですね。夜景きれい。」
「ホントですねィ。展望カフェらしいんで、ゆっくり見れると思いやすぜ。」
「楽しみです。」

ニコッと笑うユキさんに俺も口元を緩める。あー、雨だろうが何だろうが俺はもう幸せでィ。
ポーンと音が鳴ってエレベーターを出れば、すぐに店の扉があった。店員に名前を告げるとニコリと笑みを浮かべ、席へと案内される。
光を遮断する為だろうか、扉をくぐって一歩店内に踏み入る。

「わ…」

そこには、満点の星空が映し出されていた。

視界は暗く、足元には頼りない小さな明かりがあるだけ。だけれど映し出されたその光景は確かに星空で。
小さく声を漏らしたユキさん。店員に促され、窓際の席に座る。近藤さん凄ぇ良い席ありがとうございやす。
天井には満点の星空。大きな窓の外には雨で滲んではいるが、江戸の夜景が広がっていて。

「凄い、ですねィ…」
「ホント……」

薄暗い中ユキさんを見ると、その瞳にも無数の光が輝いて見えて。

「綺麗でさァ……」

三流ドラマのような台詞がスラリと出てくるくらい、俺はその光景に見惚れて。
自身の感想と同意だと思ったのか、ユキさんはこちらを向いて微笑み、再び天井に目を向けた。

静かな音楽が流れる中、ワインが運ばれてくるまで俺達の間に会話は無かったのだけれど、その空間は確かに心地の良い物だった。




ユキさんが”7日”に疑問を抱いていたらしい理由を知るのはデザートの前、綺麗にラッピングされた箱を受け取った時の事だ。






総悟くんハピバ!