四日目
「一週間…?」
『その位なんじゃないの』
”私”という存在がどういった類のものなのか。ずっと気になっていて、勇気が無くて行動に移すことが出来なかった事。だけど昨日のセブルスのリリーに対する反応を見て、このままでは駄目だと、私がリリーで良いはずが無いと思ってしまった。
そう思い至った私は、まだ皆が寝静まっているグリフィンドール寮を抜け出した。私と似たような存在、ということでゴーストの誰かに出会えたらと思っていたのだが、如何せんホグワーツはとても広い。何処に行けば良いのかも分からず、結局私は唯一居所を知っているゴーストに会いに行くことにした。マートルだ。
『私達とは違う存在みたいね。意識体のような存在だから、そう長くは居られないと思うわよ』
映画のように叫んだりするわけでもなく、淡々と面倒そうに答えてくれた彼女。苦笑いをしながらお礼を言ってその場を後にしたのだが。
「(一週間、か…)」
リリーを乗っ取って今日で四日目。いつまでもこのままだとは思ってはいなかったけれど、こんなにも終わりが早いなんて。
マートルが言うには所謂成仏ということらしいが、彼女もしたことが無い為にどうなるかは定かではないそうだ。
「はあ…」
「リリー」
窺うような声量で呼ばれた名前に、とっさに息を詰める。振り返れば其処にはセブルスが居て。
「お、おはようセブ。随分早いのね」
「あぁ、おはよう。…まぁ、な。それよりもこの間リリーが言っていた本を手に入れたんだ。読むだろう?」
スッと差し出されたのは少し古ぼけた本。わざわざこんな朝早くに?とは思うが、他寮の二人が誰にも邪魔されずに会うのは容易ではないのだろう。
タイトルは英語で当然読めないけれど、リリーが読みたがっていたというならば受け取っておくべきだろうと思い、にこりと笑ってお礼を言う。
「え、ええ、ありがとうセブ。楽しみだわ」
「…」
受け取ろうと本に手を掛けると、セブルスは渡すのを拒むように手に力を入れた。それに驚いてセブルスの顔を見ると、彼は目を細めて怪訝な顔をして私を見ていた。
「…君は、本当にリリーか?」
「…っ!!」
ぽつりと、だけれど確信を持ったその言い方に息を飲む。
「やだ、セブったら寝ぼけているの?」
「僕は寝ぼけてなどいない。…この本はリリーが僕に薦めた物だ」
「!」
嵌められた。核心はあったのだろう。だけどそれを証明するだけの証拠が無くて、こんな強硬手段を取ったんだ。
「それほど前の話じゃない。だからリリー本人ならば覚えていない筈が無い」
「…」
「お前は誰だ!!何故リリーの姿をしている!!リリーを何処にやった!?」
この必死さの裏には、リリーを心配する心があって。だけどリリーはその心を知らなさすぎて。あぁ、本当に彼は損な性格をしている。そんな事を考えていると可笑しくなってきて笑いが漏れた。
「ふふ…」
「…何が可笑しい」
「いや、完敗だなぁって思っただけだよ。杖を下ろしてよ。この体を傷付ける事は君でも許さない」
「…まさか」
手を胸に当て、眉を下げて笑う。
「この体はリリーのもの。私がリリーの体を乗っ取ったの」
愕然とする、とはこの事だろうかとセブルスの顔を見て思う。小さく息を飲んだ彼にヘラリと笑って両手をヒラヒラと振る。すると彼は再び眉間に皺を寄せた。
「っていってもあと数日の話だけどね」
「…何?」
「さっきマートルに聞いたんだ。私はゴーストとは少し違うみたいだから、そんなに此処に留まっては居られないだろうって」
「…」
私は今どんな表情をしているんだろう。何か言おうとしたセブルスは、それを飲み込んでぐっと拳を握った。
「今リリーは寝てるんだ」
「なっ…、リリーは其処に居るのか!?」
「まあね。そんな殺気立たないでよ。リリーは無事だってば」
ホッと小さく息を吐いたセブルスに微笑ましくなる。そして後数日、出来ることをやろうと思い至って。
「だから、さ」
「…」
「話し相手になってよ!」
「…はあ?」
根本的にこの二人は会話が少なすぎるのだ。だったら、グリフィンドールとスリザリンのこの二人が周りを気にすることなく話す事が出来る場所が出来たら。
「君がリリーを好きなこと、黙っていてあげるから!」
「なっ…!!?」
「リリー可愛いもんね〜!お姉さんに相談してごらん?」
「うっ、うるさい!!貴様には関係ない!!」
「ほらほらそんな騒がないの。朝食までまだ時間あるもんね。何処か話せる場所は無いかなぁ」
「っ、手を離せ!おいっ!」
君の手を引くなんて事、私では力不足だけれど。