恋は突然に…?

※『出会えた奇跡』続編。三人目の天女編。



昼食が済み、ユキはいつも通り先生方の為の食事の下準備をしていた。そこに、最近よく訪れるようになった鉢屋三郎がカウンター越しにユキを眺め、ふと思い出したように口を開いた。

「あ、そういえばユキ聞いたか?」
「えー?(フーーーッ)何?(フーーーッ)なんか言った?(フーーーッ)聞こえない(フーーーッ)…はぁ、はぁ、はぁ」
「おまっ、少しはこっち見ろよ!」
「はあ?私は今火おこしで忙しいんだよ!それでも聞いてほしいなら鉢屋が気張れ。」
「くそっ」

忌々しげに顔を不破雷蔵の顔をした三郎は小さく舌打ちをしたが、それでも話したいようで声を張り上げた。

「今ァァ!くの一教室の方でェェ!天女が保護されてるらしィィ!」
「うるさいな、そんな大声出さなくても聞こえる。」
「なんだとテメェェェ!!」

フリーの忍だったユキの聴力は、常人より優れていると言える。その事に気がつき、遊ばれたのだと気付いた三郎は、ひとつ溜め息を吐いて頬杖をついた。

「今はまだ殆どの時間をくの一の生徒と過ごしているようだが、今までのように事務とかの仕事をするようになったら、こっちにも来るだろうって。」

天女とは言ってもまだ間者の疑いがあるので、今回はくの一がその見極めを行うようだ。ユキがふーんと小さくもらすと、廊下から足音と話し声が聞こえてくる。

「噂をすれば、だねぇ。」
「あぁ………?」

速度からして歩いていて、足音は一つだけ。声の高さからして、天女とお付きのくの一達のようだ。

「ユキさーん!」
「あら、ユキちゃんにトモミちゃん。こんな時間にどうしたの?」
「町でお団子を買ってきたので、お茶にしようと思って。」
「ん、じゃあお湯沸かすから少し待ってて。」
「はい!ありがとうございます。あれ、不破先輩こんにちは。」
「…ん、あぁ。」
「違うわユキちゃん!不破先輩じゃなくて鉢屋先輩よ!」
「あ!本当ね。ごめんなさい鉢屋先輩。」
「ん、あぁ。」

何処か上の空な三郎を不思議に思いながらも、ユキとトモミは折角だからと連れてきた天女を二人に顔見せする事にした。

「…あ、そうだ!ユキさん鉢屋先輩!紹介しますね、此方天女様です!」
「あ、はじめまして!」
「へぇ?よろしくね。」
「あ、よろしくお願いします!」

何この人!?アニメにも原作にもこんな人居なかった!モブにしては立ち位置が重要そうだし。…あ、もしかして逆ハー主とかかしら。きっとそうだわ!あぁ皆騙されてるんだわ!なら私が傍観主になって皆を影からサポートして、目を覚まさせてあげなくちゃ!それにしても三郎は格好いいわ!あ、でもこの顔は雷蔵だものね。上級生と仲良くなるためにも雷蔵と三郎を見分けられるようにならなきゃ!
…とか天女が考えているとはつゆ知らず、ユキは急須と湯のみを乗せた盆を差し出しながら、何処かぼんやりとした三郎に視線を向けた。

「それにしてもお二人は仲が良いですよね。」
「ん?そうかな。」
「そうですよぉっ!」
「ていうか鉢屋。さっきから何?こっちじっと見て。」
「ふっ、漸く此方を向いたな。」

熱っぽい視線をユキに送り続けていた三郎は、いつもの笑みとは少し違う、素に近い笑みをふわっと浮かべた。

「「キャーッ!」」
「!!」
「…」

ユキとトモミは黄色い声をあげ、天女は驚いた後に悔しそうに憎らしそうに顔を歪め、ユキは冷めた瞳でなんだコイツと思っていた。
もしや天女に対しての何らかの行動かもと思い、ユキは矢羽根を飛ばしてみるが、三郎からの返事は無い。
矢羽根など聞こえなかったのか、三郎は甘い声で囁き続ける。

「ユキがちっとも私を見てくれないから、寂しかったんだぞ?」
「…」
「もう下拵えも終わったろ?美味い饅頭があるんだ。だから、さ………」

カウンターに置かれていたユキの手にそっと三郎が触れ、包み込むようにしてから上目遣いにユキを見やった。

「ユキの部屋…行ってもいいか?」
「「キャーッ!!」」

二人(三郎)の只ならぬ雰囲気に、ユキとトモミは再び嬌声をあげた。そして未だに熱っぽい視線を送り続ける三郎と、照れるでもなくその様子を見続けいるユキに交互に視線をやってから、互いに顔を見合わせた。

「それじゃあ私たちはお邪魔みたいなので、これで失礼しますっ!」
「失礼しまぁす!」
「え、あ、ちょ…」

ユキは醜い表情をした天女の手を取って、トモミは盆を持って駆け足で食堂を抜け出した。これは瞬く間に妙な噂が飛び交うな、と肩を落として三郎に視線をやる。するとそこには、頭を抱えてうずくまっている三郎が居た。

「…今度は何やってんの?」
「な、なんでもない!今のは忘れてくれ!!」

よく見ると仮面をしている顔に変化はあまり無いものの、耳が真っ赤になっている。

「はあ?」
「だ、だって、なんか頭がボーッとして…!うわぁぁぁぁぁあ!!!」
「え、は!?ちょ、鉢屋!?」

忍者らしく足音もたてずに食堂から走り去っていく三郎。その様子に驚いて思わず伸ばした片手はそのままの格好で、ユキは暫く呆然とするのだった。






傍観主気取りな天女その3がやってきた!
その影響でユキちゃんに逆ハー補正が付いた。その補正は天女様が居る時だけ発揮される。その時の事は記憶に残る。