未来もキミと

※『未来に芽吹く』続編



キーファの爆弾発言から数年が経った。
最近は新大陸だなんだと盛り上がっていた。
かくいう私は兄達の旅について行くことはせず、(というよりも完全に出遅れたので)今まで通りフィッシュベルで母と平和に暮らしていた。

「聞いてくれよユキ!俺達すげえ冒険したんだぜ!」
「何が凄い冒険よ!モンスターは出るし、靴だって汚れちゃったじゃない!」
「お前が勝手について来たんだろーが!俺は男の約束っつーことでユキにも秘密で遺跡探索してたんだぞ?」
「当たり前じゃない!あんな危険な物にユキを巻き込んでたら承知しないわよ!」

年々過保護になるマリベル。それは年の近い子供が少ないからかもしれないし、キーファが付きまとっているからかもしれないが、本当の妹のように大切に思ってくれている事は確かだった。

「なあユキ、あの場所行こうぜ?」
「うん。」

キーファは宣言した日から猛烈にアピールが始まった。初めのうちは子供だからと侮っていたのだが、如何せん彼はいい男すぎた。

「遺跡の変な像あったろ?あれが突然光り出してさ」
「へぇー」

王子という肩書きを持ちながらも国民に平等に接する事が出来る寛大な心の持ち主。それは王様の人柄にもよるのだろうが、彼は兵士や国民にとても可愛がられていた。

「ユキ、これやるよ」
「わ、可愛い」
「綺麗に咲いてたからさ、お前に土産」
「嬉しい」

女子供の扱いも上手で、自然とレディファースト精神が身に付いているような男だった。そのくせ私に一途だと公言しているのだから女性からの好感度がとても高いのだ。

「ユキ…」
「?…んっ」

私はそれを表立って否定することは無かったけれど、肯定する事も無かった。だって、私は知っていたから。キーファがこの国、この時代に留まってはいられないって。

「好きだ…」
「っ…は、」

キーファが私を好きな理由は、この島国に居る女の中で歳が近いから。私はやっぱり異質で、他の子とは違って、冒険好きで新しいモノ好きな彼はそれに惹かれたんだ。だからこれは運命の人と出会うまでの一時の夢。

「好きだっ」

好きだと言われても、キスをされても、私はそれを返す事はなかった。情が移るのは当たり前で、好きだと言われて心が跳ねるのも当たり前で。だけど私は眉を下げて笑って、心の中だけで好きだと呟いた。

だから、これも予想通りなんだ。




「ユキ…、キーファが…」

気まずそうに視線を合わせてくる兄とマリベルとガボ。それにヘラッと微笑んでそっか、と呟いた。
だって、私は知っていた。それがいつだなんて覚えてはいなかったけれど、キーファが過去に残って、どっかの民族で踊り子の女の子の為に生きるって。

出会った時から、出会う前から知っていた。

なのに、なんで、なんで…。涙が溢れてくる。息をするのが苦しい。覚悟は出来ていたのに。

「ふ…っ」

三人が王様にも報告に行くと言って出て行った後、二人でよく来ていた人が殆ど来ない海辺に来て、声を殺して泣いた。












「なーに泣いてんだよ」



振り返ると其処には、見慣れた金髪で。

「なん、で…」
「なんでって、手紙読まなかったのか?」

兄に無言で渡された手紙は、読まずに部屋に置きっぱなしだ。

「力試しがしたかったんだ。俺の力を確かめたかった。だからあの人達があの場所を離れるまでの数日間、ユウキ達の力を借りずに洞窟に行ったり、剣の指導をしてもらったりしてたんだ。」

やっぱり時間の流れが違うんだな。ユウキ達帰ってきたばっかりなんだろ?そう言って笑うキーファにそっと手を伸ばす。すると、彼は優しく掴んで微笑んでくれた。

「ずっと一緒に居たいと思った。この気持ちは、ユキに初めて会ったあの日から変わらないどころか、ドンドン強くなってる」

ポロリと涙が零れる。

「俺はグランエスタードの王子だけど、王座を継ぐつもりはなくてさ。城でジッとしてるなんて、これからも出来ないと思う。世界中を見てみたい」
「うん」
「俺はまだまだ弱い。きっと、ユキを危険な目にあわせる事もあるかもしれない」
「…っうん」
「たけど、一緒に居たいから」

溢れてくる涙を止められない。キーファの真剣な瞳が、私の瞳をとらえて離さない。

「過去も未来もお前と居たいから。ユキ、俺について来てくれないか?守るから…」

キラキラ光る髪が眩しくて目を細める。

「俺が、ユキを守ってみせるから」

私は生まれた時から誰とも違った。それは身体能力だけじゃなくて、長年培った倫理観だとか染み付いた習性だとか。
物語は変わらない、変えられないと思ってた。たけど、私が主人公の妹に生まれた時点で、この世界は変わっていたのかもしれない。運命は変わる──…

「っ好き…っ」
「!」

ずっと言えなかった言葉。心変わりが怖くて、運命が怖くて言えなかった言葉。

「…好き、…好きなの…っずっと言えなかったけど、私──っ」
「っユキ!」

きつくきつく抱きしめられる。それが嬉しくて、私もそっと手を回した。







(…お城行く?)
(…………もう少し)
(ふふっ、うん)




踊り子の子に見惚れていた理由があの服ユキが着たら似合う!とか思ってたらいい。クリア後の石版イベントもこれで消化できるかな、と。