ひらけーごまっ

「ほいほーい、じゃあ皆集まってー。」

ホグワーツに入学してひと月。他の授業は既に数回行われているが、この『体術』の授業は今日初めて行われる。何故ならこの授業の先生が先日漸く戻ってきたからだ。
どんな強面の男が来るのかと構えていたが、いざ広場に着くと待ち構えていたのは同い年くらい(むしろ年下?)のアジア系の女の子だった。

「皆さんはじめましてー、私はユキ・吉田でーす。この授業では体術を学んでもらう訳ですが、キミ達の中には何故この魔術学校と呼ばれる学び舎で体術?と思っている人も居ることでしょが、体は人間の基礎。それはマグルだろうが偉大な魔法使いだろうが変わりません。はい、此処までで何か質問がある人ー。」
「あ、あのー…」
「ん?なんですかMr.ポッター。」
「先生…は、随分お若く見えるんですけど…」
「あぁ、はい。君たちの一つ上です。」

ええええええ!?一つ上?一つ!?
他の生徒も驚いているみたいでざわめく。

「なんでそんな奴が教師なんだよ。」
「Mr.ブラック、何か不満でも?」
「あぁ。一つ上の、しかも女に教わるような事は無えな。」

隣にいたシリウスが毒づくが、それを俺達は咎める事はしない。何故なら誰もが、特に男達は思っているからだ。女の子に力で負ける筈がないって。そう思って彼女を見ると、彼女は表情一つ変えずに顎に手を当てた。

「ふむ。皆さんがそう言うと思って特別ゲストをお呼びしてまーす。はい拍手ー。」

パチパチと彼女が一人拍手をすると、校舎の陰から一人の先生が現れた。そして、その人物の登場が僕らに更なる衝撃を与えた。何故ならその人物は…

「えーと、アルバス・ダンブルドア校長でーす。」
「これユキ、もう少し年寄りを労らんか。」
「私と彼でちょっとした模範演技をしたいと思います。さあ皆、見える位置へ。もう少し離れて。」

数メートル離れて向かい合った二人を囲むように僕らが並ぶと、校長が杖を構えた。それを表情を変えずに眺める彼女。

「私は常々思ってるんですよねー。杖の無い魔法使いってなんて無力なんだろうって。それを証明したいと思います。このハンカチが床についたら開始ですよー。」

ひらひらと舞うように地面に引き寄せられるハンカチ。それを息を呑んで見つめる僕ら。緩やかな風が吹き、ハンカチが地面に触れたその瞬間──…

「エクスペリアームズ!!」

それはほんの一瞬の出来事で。校長が杖を構え呪文を唱えたと同時に、校長の杖が吹っ飛んだ。何故なら彼女が大きく蹴り上げたからで、宙へと舞ったそれは彼女の手の中に収まってしまった。

「とまあ、これで校長は丸腰のただのジジイになったわけですー。」

…え?えええええ!?
僕らは、(さっき暴言を吐いたシリウスでさえも)呆然として目を見開いた。それくらい校長が負けたというのは衝撃的で、有り得ない事だからだ。校長は魔法界でも屈指の実力者で、それは年老いた今でも変わることのない事実。偉大な魔法使いなのだ。それがほんの一瞬で、僕らの一つ上の華奢な女の子に負けてしまったのだから。

「ユキ、もう少し丁重に扱ってくれんか。杖は折れておらんだろうな。」
「うっさいですよ狸が。私の就職先をことごとく破談にさせておいた分際で。」
「ホグワーツからの猛アタックを無視するからじゃ。」

一方はニコニコと、もう一方は無表情で繰り広げられる静かな攻防戦と先程の出来事について行けずにいる中、リーマスが果敢に挙手した。

「せ、先生!」
「…」
「…お主の事じゃろう。」
「あ、私か。なあにMr.ルーピン。」
「先生はホグワーツの生徒だったんですか?」
「うんそうだよ。って言っても去年一年だけだけど。」

そっかー、と取り敢えずの正体が分かったので安心して顔を見合わせる僕ら。すると校長先生がそれはそれは楽しそうに笑った。

「これユキ、肝心なことをはぐらかすでない。」
「か、肝心なこと?」
「なんかありましたっけ?」
「お主は去年たった一年の在学で、7学年全ての試験で首席をキープした後に卒業した、前代未聞の天才児じゃろうが。」

あーそういえば。と呟く彼女に目を丸くする。え?今校長はなんて言った?

「「「「「ええええええええええええ!?!?」」」」」
「私は天才じゃありません。努力家ですー。」
「努力する天才ほどの強者は無かろうて。」
「お褒めに与り光栄ですー。んじゃ皆分かりましたかぁー?誰もが認める偉大な魔法使いが適わないも杖をとられてはただのジジイ。君たちは折角若いんだから、それなりに戦えるジジイになりましょーう。」

こんな華奢な女の子に出来るんだ。僕らだって魔法では校長に適わなくても、体術でなら勝てるかもしれない。各々が顔を見合わせて思いを新たにする。もう僕らグリフィンドール生の中に、体術なんて必要ないなんて考えている奴はいないだろう。

「あ、最後に一つ」

ニヤリと笑った彼女に目を奪われる。こんな年相応の悪巧みをするような顔もするんだ、なんて頭の片隅で思った。

「私は一年二ヶ月前までは魔法のマの字も知らないマグルだったんで、そこんとこ宜しくぅ。」

全学年で首席。それは並半端な努力ではない事がわかる。どの学年にも突出した生徒は居るものだ。彼女はそれらの実力者を抜いたのだから。
授業が終わり、頭に置かれた校長の手を捨てるように払った彼女の後ろ姿を見て、ほんの少し彼女を知りたいと思った。

「ユキ、ね。」

発音しなれない彼女の名前は、なんだか特別な響きに感じた。






親世代一年生。一応ジェームズ視点。
主は一つ年上の卒業生。相変わらず忍者。転生ののち若返りトリップ。特別上忍くらい。だけど最強。一応有知だけど、詳しくは無い。
表情は無表情だけれど好奇心は旺盛。影分身して全授業に出席してた。さっさと卒業していいとこに就職しようとしてたら校長にことごとく邪魔された。