びびでばびでぶーっ

※『ひらけーごまっ』続編。三巻の途中くらい。帰還報告をしてないので相変わらず行方不明扱い。




「ねーねーリーマス、今日の夕食にミートパイ出るんだって。楽しみだね!」
「あぁそうなのかい?それは楽しみだ………は?」

ごく自然に隣に並んだその女性は、普段親しい友人に話し掛けるのと同じように軽く話し掛けてきた。あまりに自然だったので気付かずに返事を返したが、明らかに可笑しい。この学校にこれほど親しい女性はいないのだから。
そう思って彼女を凝視していると、視線に気が付いたのか彼女が顔をあげた。そして絶句。

「な…っ」
「チキンないかなー。ご飯の話してたらお腹空いたなー。」

未だに世間話をする彼女。俺は彼女が今ここに居るのが信じられなくて、足を止めて指を指し、口をパクパクとさせた。

「な、なんでユキさんが此処に!?」
「…え?夕食を食べに来たんだよ。」
「いやいや、そういう事じゃなくて!ユキさん今まで何処に居たんですか!行方不明だって言われているの知ってますか!何普通に現れてるんですか!」
「…うん。お腹空いたね。」
「誤魔化せる訳ないでしょう。」

はあ、と溜め息を吐くとユキさんはポンポンと背中を叩いてきた。ハグなどのスキンシップを苦手とするユキさんの、ユキさんからのスキンシップ。これをされるとすっかり安心してしまうんだから厄介だ。

「最近どーお?」
「セブルスが薬を調合してくれているので問題ありません。」
「ふーん…その割にはやつれてるねえ。まあ次の満月には私も居るだろうし大丈夫だろうけど。」

狼に変化しているときはユキさんに絶対服従だ。本能的に勝てないと感じ取っているんだろう。噛みつくことも、身勝手に走り回ることも出来ない。

「…お手柔らかに頼みますよ。」
「ははは。」

無表情で笑うユキさんに俺も笑う。記憶の中のユキさんはとても大きく感じたのに、今隣にいる彼女はとても小さい。彼女の国では標準らしいけれど、俺達に比べたらとても小さい。それこそ、生徒と混ざっても分からないほどに。

「ユキさん、手繋ぎませんか?」
「やだよ。」

だから今度こそ見失わないようにしよう。僕にとって、僕らにとって大切な君を。抱き締めるのを我慢して手を伸ばせば、彼女は嫌そうにしながらも振り払うことはしなかった。