てくまくまやこんっ

※『ひらけーごまっ』続編。親世代。




あれは例の事件が起こる数週間前の事だっただろうか。

「…」
「…」
「うまうま」

英国の郊外にあるオープンカフェ。そこには少しくたびれたカッターシャツを着た僕、リーマス・ルーピンと全身黒づくめのセブルス・スネイプ、そしてユキ・吉田という珍しい組み合わせが居た。
一人の男は黙々と紅茶を啜り、もう一人の男は笑顔を浮かべながらガトーショコラをつつき、女は口いっぱいにケーキを含み咀嚼する。

そんな微妙な空気が流れる中言葉を発したのは、この状況を作り出した現況のユキさんだった。なにしろ彼女は、偶然を装いながら僕らを捕獲し、このカフェに半強制的に押し込んだのだから。

「今度さぁ、ハロウィンじゃん?」
「…」
「はい、そうですね。」
「そん時にジェームズとリリーに新婚旅行をドーンとプレゼントするから、暫くハリーのこと宜しくね。」

新婚旅行かぁ。こんな時代だからなかなか二人は旅行とか行けてないもんなぁ。
ん?でも…あれ?

「どうしてそうなる。」
「ハリーは置いていくってことかい?」
「うん。ジェームズは嫌がるだろうけど、話の流れ的に…ねえ?」
「いや、ねえ?って聞かれても知らないですけれど…」
「この世情に旅行などと…」
「そうだね。危ないんじゃないですか?」
「それは心配いらないよー。私の故郷だからね。」
「ユキさんの故郷?」
「うん。魔法使いなんて一人も居ないけど、魔法使いよりも強い人達が沢山居るから安心していーよ。」

要するに、ユキさんみたいな人が一杯居るってこと…?そ、それは安心…していいのか?

「だからさ」

彼女の漆黒の瞳の強さに圧倒される。この瞳に、絶対的な強さに僕らは惹かれたんだ。

「二人が”跡形もなく”居なくなっていたら、心配しなくていいからね。」
「「──っ」」

それは、彼女が普段何気なく話す未来の断片で。
説明する気の無い彼女だから、その短い言葉から推測するしか出来なくて。”跡形もなく”ではない消え方がある、ということだろうか。その未来を変える為に彼女は…。
物事に対して大分淡白な彼女だけど、少なからず俺達を気に入ってくれているから。だからきっと大丈夫なんだ。
彼女のする事為す事信じ切ってしまっている自分に笑う。

「分かりました。ハリーの事は心配しないで下さい。ね、セブルス。」
「…」

目を細め、眉間に皺を寄せるセブルス。それを僕は不思議に思い見つめる。

「お前は…」
「?」
「いや、いい。最悪ペチュニアが居るし、校長だって気にして下さるだろう。問題無い。」
「もちゃもちゃもちゃ」
「…口を拭かんか!口一杯に詰め込むなといつも言っているだろうが!」

はははと二人のやり取りを眺めながら紅茶を啜る。
この時セブルスが言おうとしていた事を知るのは数週間後、ジェームズとリリーだけでなくユキさんも行方知れずになった時。

お前は、ユキはどうなるんだ?

あの時セブルスが聞いていたら、彼女は答えてくれただろうか。あれから長い年月が流れたけれど、未だに彼女の行方は掴めない。だけどきっと、なんて事無い顔してまた戻ってきますよね?






主が行方不明時代のリーマス視点でした。話自体は例の事件よりも前の話。
ペチュニアとリリーはそれなりに仲良し設定だけど、バーノンおじさんは結構あのままなので、ハリーは肩身の狭い状態で育つ。